Noriyuki Hirata
[東京 16日 ロイター] - 日経平均が意外高したあと、戻り基調はいったん足踏み状態となっている。決算シーズンを通過する中で米関税リスクの織り込みが進み、1株当たり利益(EPS)が低下。投資家は本格的な買い出動に二の足を踏んでおり、4万円回復には距離があるとの見方が優勢だ。焦点の関税を巡る日米協議で調整が難航するようなら、短期的には下方向に振れるリスクも指摘されている。
「日経平均の上昇は完全に息切れし、3万8000円が目先の上値めどになってしまった」とニッセイ基礎研究所の井出真吾チーフ株式ストラテジストは指摘する。
3万8000円は、トランプ関税を警戒して株安となる前に半年間にわたって上下したレンジの下限だ。それだけに、同水準から上では累積売買代金の多いゾーンとなるため「ヤレヤレの売り」が上値を抑えやすいと、みずほ証券の中村克彦マーケットストラテジストはみている。
決算シーズンを通じ、日経平均のEPSが低下してきたことで、上値の買いにくさが意識されている。日経平均のEPSは、シーズン序盤のディスコの決算発表があった4月17日に2474円だったが、15日までに2317円に落ち込んだ。
JPモルガン証券の高田将成クオンツ・ストラテジストは「今は病み上がり。長期投資家も短期筋も(株価の先行きを)神経質にみているところがある」と話す。海外短期筋のCTA(商品投資顧問業者)などトレンドフォロワーを中心に、4月に見られたような強い恐怖感は修正されてきたが、依然としてトランプ政策の不確実性がぬぐえないためだ。
急落からの戻り局面では、CTAなどがポジションを復元する動きがみられたが、JPモルガンの高田氏は「相場に合わせてポジションを戻したにとどまる」として、現時点では一段の上値追いの原動力になるとまではみていない。
<日米貿易交渉がカギ>
株価は、EPSに株価収益率(PER)を乗じて算出される。現在のEPSで4万円に届くには、株高への期待を映すPERが少なくとも17倍超へと一段と高まる必要がある。ただ、すでに市場心理は強めの水準にある。15日時点の日経平均のPERは16.29倍で、コロナ禍後の中心レンジ14―16倍の上限にある。
PER16倍程度でもEPSが8%向上するなら、4万円付近に上昇する計算だが実現は容易ではなさそうだ。米経済の減速懸念がくすぶる中、数量効果による業績寄与が見込みにくい上、トヨタ自動車が高関税下でも当面は値上げしないことを表明したように、価格転嫁が進むかは不透明だ。円安による業績押し上げも、昨年に比べ期待しづらい相場環境になっている。
ニッセイ基礎研の井出氏が先週末までの企業決算を集計したところ、今期の純利益の会社予想はマイナス8%、市場予想はマイナス0.7%と、ギャップが生じている。結果的にどうなるかはトランプ氏次第といえるが「関税に関する米国の強硬姿勢が和らいできていることには希望が残る」(ニッセイ基礎研の井出氏)という。
来週にも開催との観測がある3回目の日米貿易交渉の焦点は、日本経済の柱である自動車への高関税を巡る譲歩を引き出せるかどうかだ。一段の株高に向けては「日米の貿易交渉が、日本側の優勢で着地できるかが重要だ。加えて、米国株が牽引する形での強いリスクオンムードが戻ってくる必要がある」と、JPモルガンの高田氏はみている。
マクロ系のヘッジファンドは、米英合意の後、英国に次いで合意に近いのは日本との思惑から、5月前半に日本株に買いを入れていた形跡があるとJPモルガンの高田氏はみている。ところが実際には、英国に続いて交渉に進展がみられたのは中国だった。日米交渉が難航すれば、市場は相対的に中国株が優位との見方に傾くリスクもあるという。
<「二番底」模索のリスクも>
日米協議が期待外れとなれば、株価は二番底の模索に移行するリスクが潜んでいる。15日時点で25日移動平均線からの乖離率は6.7%、東証プライム市場の騰落レシオは146%で、いずれも過熱感の目安とされる5%や120%を上回っており、すでに短期的な調整を警戒するサインは点灯している。
株価は4月前半の急落後に急騰してきたため、現行水準より下方向では需給面のしこりはほとんどなく、節目らしい節目は見当たらない。材料次第では「過熱感が鎮静化するまでに、3万5000円程度への下押しがあってもおかしくない」と、みずほ証券の中村氏は話している。
(平田紀之 編集:橋本浩)