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焦点:航空機の納入遅れ、背景に高まる「特注高級シート」需要
2025/07/05 11:35

Tim Hepher

[英南部クンブラン 2日 ロイター] - 新型コロナのパンデミック後に飛行機移動の需要が高まる中、欧州の航空機大手エアバスと米同業ボーイングによる数十億ドル分ともいわれる航空機の納入遅れが生じ、乗客の運賃負担の上昇を招いている。納品遅れの原因の一つといわれているのが、航空機の座席製造部門における開発・製造の遅延問題だ。

座席のように一見単純なものがどのようにしてジェット機の供給網全体を遅らせるているのか、ロイターは座席の製造や購入に携わる関係者や航空会社の最高経営責任者や設計者など10人以上に取材した。

「これを見れば、高級なひじ掛けで素敵だと思うだろう。でもその製造には、多くの組み立て作業が必要だ」──。

座席メーカーのサフラン・シーツGBのインダストリアル・バイスプレジデント、ダフィッド・デイビス氏は、南ウェールズのクンブランにある同社工場を案内しながら記者にこう話した。プレミアクラス向けの高級シートの製造には、15カ国50社のサプライヤーから供給される3000個もの部品を使い、複雑な組み立て作業が必要となるという。

航空機の座席製造業界は小規模企業が多く、認証におけるボトルネックに加え、航空会社による特注座席の需要の高まりで、規模の経済を実現して生産量を増やすことが困難になっている。

「本来であれば業界を停止させるほどの問題にはならないような事態が重なり、最悪の状況を招いている」と、航空機内装品の専門家で専門誌「ジ・アップ・フロント」の創設者、ジョン・ウォルトン氏は述べた。「業界は依然として家内工業的だ」

エアバスは5月、納入の遅れがさらに3年間続く可能性があると航空会社に警告し、主要な原因はエンジンと座席の供給問題にあるとした。

トロノス・アビエーション・コンサルタンシーとエアロダイナミック・アドバイザリーの調査によると、航空旅行はパンデミックから回復し、航空会社は今後10年間で800万席以上を必要としている。

これは10年間で520億ドル(約7兆4700億円)の価値があるビジネスだ。

長距離ジェット機の客室は世界でも有数の収益を生み出す空間であり、航空会社はビジネスクラスの座席に8万─10万ドル、ファーストクラスのスイートにはなんと100万ドルを投じる用意があると関係者は語る。

独ルフトハンザのカーステン・シュポア最高経営責任者(CEO)は、「航空会社として機内で真に差別化できるものは、乗務員と座席、食事くらいしかなく、プレミアムクラスではそこに注力している。機体そのものについてできることは少ない」と述べている。

航空会社が機体を発注する際、経営トップ自らが座席デザインの詳細部分に関与する場合が多いという。

<統廃合と少量生産からの脱却>航空機の座席製造メーカーは統廃合が進み、高級シートの分野は仏サフランと米RTX傘下のコリンズ・エアロスペースの2社にほぼ集約された。その下では、エコノミークラスの分野で優位に立っているものの、プレミアムクラスへの進出に苦戦している独レカロ・エアクラフト・シーティング、そして中国資本のトンプソン・エアロ・シーティングや、エアバスとボーイングが出資するベンチャー企業などが競い合っている。

しかし、その裏では、職人技的なアプローチと小規模な生産態勢から、工業規模への移行に苦労している業界の姿がある。

「彼らはイノベーションで競い合っているのは確かだが、生産となると、自動車産業ほど信頼できない」と、ルフトハンザのシュポア氏は座席業界全体について語った。

小型機の航続距離の延伸により、より狭いスペースに高級シートのデザインを適応させる必要も生じた。機体の先細りの形状や左右の違いなどもあり、全く同じ設計の高級シートはほとんどない。

それに加えて、頭部への衝撃を保護するための厳しい認証要件と、認証エンジニアの不足も問題となっている。

飛行機自体の飛行時間は20─25年だが、座席の寿命は通常約7年。そのため、ジェット機の納入後も新しい座席の注文がまたすぐにやってくる。

「これは20年来の問題だ。最近に限ったことではない。だが、状況は悪化していると思う」と、国際航空運送協会(IATA)事務局長で元英国航空社長のウィリー・ウォルシュ氏はロイターに語った。

<業界の再起動>

座席業界の生産体制をより強固にすることができなければ、航空会社の成長計画に支障が生じたり、古い航空機をより長期間運航させて改修に重点を置くことを余儀なくされる可能性がある。

一部メーカーは、脆弱な世界規模の供給網の再構築と生産の簡素化に取り組んでいる。

サフランもその一つだ。同社のシート部門は、多くの競合他社と同様にパンデミックによる需要低迷で打撃を受けた後、2024年第4四半期にようやく損益分岐点に達した。

サフラン・シートのビクトリア・フォイ最高経営責任者(CEO)はクンブランの工場でインタビュ-に応じ、「この業界は再起動を余儀なくされた。長く勤めていた従業員が複数辞めたので、再び(採用を)テコ入れしなければならなかった」と述べ、「2024年に前年比2.5倍の出荷量を達成できたことは、生産能力の増強が可能であることを示している」と付け加えた。

工場のフロアでは、チップやスクリーン、モーターなどの部品が、動く生産ラインではなく、個別のスペースで組み立てられていた。高級シートはどれも同じものがないためだという。ファーストクラス用のシートの組み立ては、より細やかな作業を行うため、専用の壁で仕切られたスペースで行われている。

「着陸装置やエンジンと同等のレベルの生産管理をしている」とフォイ氏は語った。

またサフラン社など複数の座席メーカーは、多くの航空会社が求めるカスタマイズされた装飾と、効率的な組み立てに必要な標準化されたアプローチを融合させるべく、座席の製造方法を見直している。

メーカーは、各シートを一から開発するのではなく、自動車メーカーがさまざまなモデルに単一のシャーシを使用するのと同じように、基礎設計を使いまわすことを目指している。

基盤となる設計を限定することで、座席メーカーは基本設計と認証を早い段階で実施することができ、製造プロセスの後半で遅延が発生するリスクを回避できるという。

<緊張関係>

座席メーカー側は、発注を受ける際の交渉姿勢も変えつつある。あらゆる発注を受けるのではなく、取引を断るケースが増えていると、関係者4人が明かした。入札では、座席メーカーが財務リスクの積み増しを避けようとするため、「入札なし」という結果が一般的になった。

納品の遅れにより、航空機メーカーとサプライヤー、航空会社の繊細な三者関係にも緊張が生じている。

航空会社はサフラン、コリンズ、レカロなどのサプライヤーから座席を直接購入することが多いが、取り付けはエアバスやボーイングに依頼している。

事情に詳しい関係者2人によれば、エアバスは、ジェット機の納入を遅らせるようなシート納品の遅延について、座席メーカーに罰金を課す方法を検討している。

また航空機メーカーは、客室装備の柔軟な企画力を売り込むと同時に、供給問題を緩和するために航空会社にさらなる標準化を受け入れるよう促すという、綱渡りをしなければならない。

エアバスは、多様で複雑な特注内装への対応が生産計画に与える悪影響を軽減する措置を講じているとしている。ボーイングは、特注対応で生じる認証のボトルネックが今年残りの期間の課題となるだろうと述べている。

航空リース業界からも航空機メーカーを支援する声が上がっている。

航空機リース世界最大手エアキャップ のアンガス・ケリーCEOは、「航空会社CEOへのアドバイスとしては、これ以上の座席の開発はやめろ、ということだ。どの航空会社のCEOも自社のビジネスクラスの座席を設計したがっているが、やめるべきだ」と述べた。「すでに認証済みのものを採用して欲しい。認証済みの優れた製品を採用すれば、より早く航空機を飛ばせる」

航空会社側は、最大のブランド戦略の武器の一つをまだ手放すつもりはない。

サウジアラビアのリヤド航空は、豪華な座席の装備を発表したばかりだ。同社のトニー・ダグラスCEOはロイターの取材に、「ユニークなブランドを目指しており、そのユニークさは客席で表現される」と、特注仕様にこだわる考えを示した。

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