今月7日に発表された「6月の雇用統計」の結果が下振れした頃からドル円は急速に値を下げ、先週には一時137円25銭近辺までドル安円高が進んできました。今回の動きは明らかに「ドル安」と理解できます。ドルは対ユーロでも激しく売られ、7日には一時1.08台半ばまで下げたユーロドルは連休明け18日には1.12台半ばまで上昇しています。雇用統計の下振れに続く「CPI」と「PPI」の伸びの鈍化に、年内あと2回と見られていた追加利上げ観測が急速に後退したことが「ドル売り」を加速させています。
7月のFOMC会合での0.25ポイントの利上げは動かないと思いますが、年内にもう利上げはないと判断するのは時期尚早かと思います。引き続き堅調な労働市場が再び上振れすれば、一気に追加利上げ観測が頭をもたげる可能性はあり、25−26日のFOMC後のパウエル議長の会見にしても、議長が先行きの見方に慎重な姿勢を見せれば、同じように米金利の上昇に伴いドルが買われる可能性もあり得ます。そもそも、議長を始めFOMCメンバーの多くが、先週の講演では「タカ派寄り」の発言を繰り返していたことを忘れてはいけません。「われわれにはまだやるべきことがある」とか、「インフレ率の動向は注意深く観ていかなければならない」といった類の発言をすることも考えられます。
米インフレ率が低下傾向を見せているのも事実です。ゼロ金利政策を大きく転換した効果から、インフレ率は1年で昨年6月のピーク時からおよそ3分の1になってきました。この間、FRBは都合5%もの大幅利上げを実施してきました。景気抑制を旗印にインフレと闘ってきたFRBにもようやく一息つける状況にまでなってきました。前FRB議長で、財務長官のイエレン氏も6月の消費者物価指数については、「かなり心強い内容だった」と述べています。ただ、ロシアがほぼ1年続いたウクライナ産穀物の輸出合意を打ち切ったことで、世界の食糧供給を巡る不透明性が高まり、シカゴ先物市場の小麦価格は一時「4.2%」、トウモロコシも一時「2.3%」上昇する場面がありました。また、ロシアが一方的に併合したウクライナ南部クリミアとロシアをつなぐ「クリミア橋」で17日未明複数の爆発があり、ロシアは「ウクライナ特殊部隊が爆破を実行し、橋の車道部分が損傷した」と発表しています。これに対してプーチン氏は「報復する」と明言しています。さらに「ドル安」がさらに進めば、輸入物価の上昇につながることからFRBにとって「逆風」となる材料は依然として存在しています。
米金融当局にとっては、今後数カ月が最後の越えなければならない「ヤマ場」と言えます。
7月のFOMCを来週に控え「ブラック・アウト」期間に入っていることから、金融当局高官による発言もありません。基本的には動きにくく、今週は大きな動きは避けられそうですが、一方で米企業の決算発表が始まっています。決算内容に反応して株価と債券が動き、ドル円も連れて動く可能性はあります。
外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算20年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書。