日銀のイールドカーブコントロール(YCC)は、結局市場に驚きを与えた「サプライズ」でした。長期金利の上限をそれまでの0.5%から一気に1.0%に引き上げました。市場は、「金融緩和政策変更の第一歩」と受け止め、株安円高で反応し、ドル円は一時138円05銭近辺まで売られ、日経平均株価も800円を超えて下落する場面もありました。ただ、その後は両市場とも落ち着きを取り戻し下げ幅を大きき縮小して取引を終えています。ところが、週明けの31日には、円債市場で国債が売られ金利が上昇すると日銀がすかさず買いオペに出動し、市場は「1%の上限を容認したものの、直ぐに金利が大幅に上昇するものではない」との認識を深め、今度は円売り、株式買いで反応しドル円は大きく上昇。NYでは142円70銭までドルが買われ、約3週間ぶりのドル高水準を記録しています。
植田総裁は会合終了後の会見で、0.5%と1%の間での長期金利の上昇を容認したことについて「機動的に過度な金利上昇圧力を抑制する」としながら、「長期金利が1%まで上昇することは想定していない」と述べ、「YCCの柔軟化は金融緩和の持続性を高める」と話していました。また、金融緩和策が円安を誘発するのではとの問いに、「為替をターゲットにしていない」と円安の進行を否定していました。ただ日米金利差が円安の一要因であることは事実で、米金融引き締め政策が本格的な終焉を迎えた時には円高圧力がかかることは容易に想定できることでしょう。円安が進んでいる時が一つのチャンスで、円高が始まってしまった後の政策変更ではさらに円高を加速させてしまうリスクがあります。もっとも上述のように、「為替をターゲットにはしていない」と断言していることから、円相場と金融政策との関係はないのかもしれませんが、どうでしょう。
今週は最重要指標の一つである「7月の雇用統計」が発表されます。「中銀ウィーク」が終わり、夏休みに入ったことから参加者も減ることが予想されます。ただ市場のボラティリティーは下がるどころか、先週末の金融政策発表直後には141円台に載せ、その後は138円ぎりぎりの水準まで急落したように、相変らず荒っぽい動きが続いています。FOMCが終わったことで、地区連銀総裁などの発言機会も多くなります。総じてタカ派の発言を繰り返して来たFOMCメンバーが、どの程度変化を見せるかも注目です。8月は各国中銀の金融政策会合もありませんが、だからこそ注目される「ジャクソンホール会議」が控えています。米金融当局の年内残り3回の会合でさらなる追加利上げがあるのか、あるいは7月の利上げが最後だったのか、を探ることになります。シンポジウムは8月24〜27日(現地時間)の予定で、今年は対面での会議になります。
外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算20年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書。