8月の雇用統計では、非農業部門雇用者数(NFP)は市場予想を上回ったものの、「18.5万人」でした。これで5月の「30.6万人」を最後に3カ月連続で、労働市場の堅調さのメドと言われる「20万人」を下回ることになりました。今年1月の「47.2万人」の増加で始まった、これまでの1−5月までとは明らかに様相が異なってきました。7月のJOLTS(求人件数)も予想に届かったように、米国の人手不足は徐々に解消に向かっていると思われますが、労働市場が変調をきたして来たのかどうかは、もうしばらくは、発表されるデータを確認する必要があるかもしれません。海外からも8月の結果を受けて、「雇用統計とJOLTSのデータは、労働市場が均衡を取り戻しつつあることを示し、FRBが今後追加利上げを行わず政策金利の長期据え置きフェーズさらにシフトしていくとの考えを裏付けるものだ」との評価もあります。少なくとも3カ月連続で20万人を下回る結果を示したことは、労働市場の拡大傾向には終止符が打たれた可能性が高いと判断しています。この傾向が正しければ、いずれ賃金上昇傾向も止まり、ひいては好調な個人消費にも影響が出て来るかもしれません。FRBにとっても1年半におよぶインフレとの長い闘いで、ようやくゴールが手に届くところにまで迫っていると言えるかもしれません。
問題は、これでドル高の勢いが変わるのかどうかです。先週末のNYでは一旦144円台半ばまで売られた後、146円台前半まで急速に反発したことで、短期的な動きを示す「1時間足」より長いチャートでは全てドル上昇を示唆する形状になっています。先週は一時ドル円が147円台前半まで買われる局目はありましたが、それを除けばここ3週ほどは概ね144円台半ばから146円台半ばで推移しており、ドル高傾向を見せているとはいえ、一進一退の動きが続いています。今週は「雇用統計」のような重要指標はありませんが、19−20日開催のFOMCに合わせ、「ブラックアウト期間」前にあたるため、多くのメンバーの講演等が予定されています。雇用関連指標の下振れを受け、どの程度のメンバーがフィラデルフィア連銀のハーカー総裁のような「ハト派」に傾くのか、あるいは依然として「タカ派」姿勢を維持するのかが一つの焦点になります。7日(木)には、そのハーカー総裁の講演の他、FOMC会合で議長を務めるNY連銀のウィリアムズ総裁の発言機会もあり、注目したいと思います。
日米とも株価が再び堅調に推移しています。取り分け、日経平均株価は週明け4日も堅調に推移しており、このままプラスで引ければ6日続伸ということになり、指数も3万3000円に迫る勢いです。株高はリスクオンについながり易く、このまま今週も堅調に推移するようだと、「円安材料」の一つとして捉えられることにもなります。「秋の陣」に向け、ドル円相場は依然として不透明で、混沌としていますが、そろそろ確かな動きにつながるデータが欲しいものです。
外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算20年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書。