植田日銀総裁とのインタビューを報じた読売新聞の記事に反応し、ドル円は週開け11日(月)早朝には「ドル安円高」方向へと大きく窓を開け、一時は146円65銭前後まで売られました。先週NY市場の引け値が147円80銭前後であったことから、1円以上もドル安が進んだことになります。ドル円はその後東京市場のオープンにかけては値を戻し、147円台前半まで反発しましたが、東京市場が始まると再びドルを売る動きが強まり、午後にはさらに円高が進み、146円ぎりぎりまでドルが下落しています。
植田総裁は9日付けの読売新聞のインタビューで、「物価目標の実現が見えてくるのは、賃金と物価の好循環が金融緩和を止めても自律的に回っていく状況だ」とし、「十分だと思える情報やデータが年末までにそろう可能性もゼロではなくなった」と語っています。先月24−26日にジャクソンホールで行われたパネル討論会では、「基調的なインフレは依然として目標の2%を若干下回っていると、われわれは考えている。日銀が現行の金融緩和の枠組みを維持しているのは、それが理由だ」と述べていました。わずか2週間余りで、かなり内容が異なり一歩踏み込んだ発言を行っています。
市場では、「円安進行を間接的にけん制することが目的だ」とする声もあるようですが、実際には先週金融政策決定会合のメンバーである村田、高田両審議委員が物価上昇について、「はっきりと視界に捉えられる状況になった」といった発言をしています。こうなると、今月予定されている日米金融会合でも俄然、日銀の決定会合の注目度が高まってきます。むしろ今回はFOMCよりも注目度が高いと言えるかもしれません。FOMCでは利上げ見送り観測は不変です。もちろん、今週13日(水)に発表される8月の消費者物価指数(CPI)は不確定要素として残ってはいますが、余程市場予想よりも上振れしていない限り、利上げはないでしょう。8月の米CPIは、総合では「3.6%」と、7月の「3.2%」から加速する一方、変動の激しい食料とエネルギーを除くコア指数は「4.3%」と、前月の「4.7%」から鈍化すると見込まれています。(いずれも前年同月比)もちろん会合後のパウエル議長の会見が注目されることは言うまでもありませんが、予想通りであったら、政策金利の据え置きは順当と言えるでしょう。
上述のように、今回の読売新聞での植田総裁の発言は「円安牽制」との声はありますが、11日(月)日本の債券市場ではマイナス金利の早期解除観測が高まり10年債は売られ、長期金利は一時9年8カ月ぶりとなる「0.7%」まで上昇してきました。また、株式市場でも金利上昇に伴い、銀行の収益が高まるとの見方から銀行株の上昇が目立っています。このように為替市場だけではなく、他の金融市場も日銀の政策変更を織り込む動きになっています。ここまで来ると、21−22日の決定会合では、政策変更や修正はなくとも、会見などで近い将来何らかの動きがあることを示唆してくる可能性も高まっています。今週もドル円は神経質で荒っぽい動きになりそうです。
外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算20年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書。