先週末の雇用統計の結果にはかなり驚きましたが、市場は比較的冷静だったようです。9月の非農業部門雇用者数(NFP)が市場予想のほぼ倍に当たる「33.6万人」だっただけではなく、8月、7月分も上方修正され、米労働市場の力強さを見せつける結果になりました。市場では当然次回FOMC会合での利上げ観測が強まり、米長期金利は4.88%台まで上昇し、ドルが買われました。ただ、その動きは長続きせず、結局4.81%前後まで金利が下がり越週しました。昨日(9日)は米債券市場が休みでしたが、その間に行われたFOMCメンバーのハト派寄りの発言も効いて、金利が低下傾向を示し、10日のアジア時間では一段と低下。一時は4.62%台まで下げ、先週末の引値水準からは0.16%も低下しています。この下げ幅は、3月以降では最大の下げ幅となっています。
ドル円もその影響を受け、アジア時間には148円16銭近辺まで売られましたが、まだ明確な下落傾向には至っておらず、「ドルが下げたら買いたい」という向きが多いせいか、もみ合う状況となっています。ただ5%超えを目指すと見られていた米長期金利が低下傾向を見せたことには注意が必要かと思います。一因は中東情勢の悪化が挙げられます。パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスがイスラエルに大規模な攻撃を行ったことで、イスラエルのネタニヤフ首相も「戦争状態だ」と断じ、大規模な攻撃に転じています。すでに双方で1500人を超える死亡者が出たとの報道もありますが、この戦闘によって「Flight to Quality」(質への逃避)の流れが強まり、より安全な投資先として米国債が買われています。また次回FOMC会合では利上げが見送られるといった観測の高まりも米国債の買いにつながっている部分もあります。
FOMCメンバーの中からは、最近の米金利の上昇が金融環境を引き締め、FOMCに取って代わり追加利上げの一部を担うことが可能だとの意見が出てきました。今朝のコメントでも触れましたが、ジェファーソンFRB副議長は、「米金融当局は、必要となり得る追加的な政策引き締めの程度を見極める上で、慎重に進むことができる立場になりつつある」と述べており、ダラス連銀総裁のローガン氏も「タームプレミアムが上昇すれば、それが経済の沈静化に向けた金融当局の仕事を一部肩代わりし、当局として政策を追加で引き締める必要性が低下する可能性がある」と述べています。
米金利の上昇が、借り入れコストの上昇や住宅ローン金利の上昇を通じて景気拡大にブレイキを掛けることは容易に想像がつきます。だとすれば、米金融当局による利上げ見送りが、ドルの上値を抑える可能性も想定しておく必要があるのかもしれません。
今週も多くのFOMCメンバーによる講演の機会があります。どのような変化が見られるのか、注意深く観察することが求められます。
外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算20年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書。