ドル円が急速に値を下げています。2月末のドルの高値が150円77銭でしたが、先週末のNYでは146円48銭まで売られ、ここ1週間で4円22銭、率にして約2.9%の下落です。日米金融当局の政策の方向性を考えたら、いずれはどこかのタイングでこのような動きになることは年初から想定されていましたが、予想以上に底堅いドルの動きに惑わされ、「151円台には少なくとも1回は乗せるだろう」との見方が市場に蔓延していた状況でのドル急落でした。それほどドルは底堅い動きを見せていました。今年から始まったNISAの限度額引き上げに伴い大量の資金が日米の株価を押し上げ、特に「エヌビディア」に象徴される米国株の上昇に、ドル買い円売りが大きく作用しているといった見方もありました。
パウエル議長が議会証言で、慎重な見方を維持しながらも「利下げ開始の時期は遠くない」と述べていましたが、それは雇用や個人消費など依然堅調な内容を示す指標があり、「利下げに踏み切るにはもう少し証拠が欲しい」と、率直な気持ちを述べた言葉だろうと思います。その雇用は、先週末に発表された2月の雇用統計では、底堅い動きを見せながらも、賃金の伸びが鈍化しており、利下げを後押しするような結果でした。145円を割り込み、日足でトレンドの転換が示されるのかどうかが、今週の最大の焦点だと見ています。来週19−20日のFOMC会合では、利下げが見送られると予想していますが、雇用やインフレの新たな統計が、その決定に変化をもたらす可能性は否定できません。ただ、明日には2月の消費者物価指数(CPI)が発表されますが、6月会合までにはまだまだ紆余曲折も予想されます。市場は発表されるデータに過敏とも思える動きを見せます。
ドル売り円買いを加速させているもう一方の材料である、日銀の金融正常化観測もほぼ視野に入ってきたかと思います。日銀が金融正常化への条件として考える「賃金と物価の好循環」という2つのハードルが、持続的に見通せる確度が高まって来たことが挙げられます。今年度春闘については3月7日に公表された要求集計では「5.85%」と、昨年の実績3.58%を上回る賃上げが予想されています。要求集計と最終集計とは、過去の傾向から1.1%程度下方修正されているそうですが、その「要求と妥結の差」を踏まえても大幅な賃上げが実現しそうな気配です。インフレ率の方は、先月27日に発表された1月の消費者物価指数(CPI)は2%と、この時点では22カ月連続で日銀の物価目標である2%を上回っています。バークレーズ証券は11日のレポートで、「3月会合で政策修正を行わず、直後の4月会合で実施することを、ロジカルに説明することはもはや困難と、日銀が傾く可能性が高まっている。当社は、引き続き3月と4月では五分五分に近いものの、これで3月解除の可能性が4月を幾分上回ったと考えている」と説明しています。
外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算20年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書。