それにしてもよく動きました。先月29日に160円台に乗せ、円安が加速した時点で政府日銀による「実弾介入」と見られるドル売り円買いに5円程水準が下がり、さらに今月2日の早朝、まだNY市場が引けていない時間帯でも、同じような動きがあり、ドル円は153円近辺まで押し下げられました。この時には、その時間帯といい、水準(157円台半ば)といい、やや驚きを持って受け止められています。ドル円はその後も、米4月の雇用統計発表を受け、151円86銭まで一気に円高が進んでいます。先週月曜日に160円台に乗せ、その週の金曜日には151円台と、かなりの値幅で円が上昇したことになります。筆者は2日(木)の朝、日経ラジオの番組で、翌日の雇用統計について質問をされた際、「市場予想を上振れしても驚きはないが、下振れした場合にはドル売りが加速する可能性があり注意したい」と話しました。今年に入って3月までの非農業部門雇用者数(NFP)は全て上振れしていたこともあり、さらに前日発表されたADP雇用者数も上振れしていたことから、市場が上振れ方向にバイアスがかかっていたことを懸念したものでした。結果は予想を下振れし、ドル売りを誘う形になりました。ただ今回の結果だけで好調な米労働市場に黄色信号が灯ったかどうかは、まだ判断できません。今後は個人消費の行方など、しっかりと見て行く必要があります。
ドル円は目先「天井」を付けた可能性もあります。本稿執筆時時点では154円40銭近辺まで反発しており、先週末の底値からは3円弱ドル高方向に振れてはいますが、再び158−160円に接近するようだと、介入らしき動きが再度見られるかもしれません。そのため、輸出筋は、今度同水準に近づくことがあれば、迷うことなく「多めのドル売り注文」を持ちこむと予想されます。またそのレベルに達しなくても、157−158円台では155円の「ドルプット」(ドルを売る権利)を購入する可能性もありそうです。多くの輸出企業にとって、155円台でドルを売ることができれば、十分採算が合うからです。
今回の介入らしき動きでは約8兆円規模の「ドル売り円買い」を実施したと見られていますが、2022年3回の介入では9.19兆円の介入を行った実績があります。従って規模的には2022年と大きな差はありませんが、当時は151円95銭から140円36銭までドルが下げ、下落幅は11円59銭もあり、7.62%の下落率となります。仮に今回も同じ下落率があると仮定すると、148円01銭という数字が導き出されます。まずは150円台を維持できるのかどうかと、日足の雲の下限を割り込むことが出来るかどうかに注目しています。因みに、同雲の下限は149円94銭辺りに位置しており、仮に高値から7.62%下げれば「雲の下抜け」を完成させます。そして、それはとりも直さず「ドル高局面の終焉」を意味することになります。もちろんまだその気配はありません。
外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算20年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書。