「米7月のPPI、前年同月比で3.3%上昇」
ひと目で分かる昨晩の動き
NY市場- 東京市場では一時146円22銭前後まで売られたドル円はNYでは大きく反発。米7月のPPIが市場予想を大きく超え、利下げ観測が後退。ドル円は147円96銭まで上昇。
- ユーロドルは小幅に反落し1.16台半ばから後半で推移。
- 株式市場は総じて小動き。他の2指数が小幅安の中、S&P500は1.96ポイント買われ、3日連続で最高値を更新。
- 債券は反落。長期金利は4.28%台に上昇。
- 金は反落し、原油は反発。
7月生産者物価指数 → 0.9%(前月比)
新規失業保険申請件数 → 22.4万件
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ドル/円 | 146.46 〜 147.96 |
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ユーロ/ドル | 1.1631 〜 1.1692 |
ユーロ/円 | 170.97 〜 172.20 |
NYダウ | −11.01 → 44,911.26 |
GOLD | −25.10 → 3,383.20ドル |
WTI | +1.31 → 63.96 |
米10年国債 | +0.053 → 4.285% |
本日の注目イベント
- 日 4−6月GDP(速報値)
- 日 6月鉱工業生産
- 中 中国7月小売売上高
- 中 中国7月鉱工業生産
- 米 7月小売売上高
- 米 8月NY連銀製造業景況指数
- 米 7月輸入物価指数
- 米 7月輸出物価指数
- 米 7月鉱工業生産
- 米 7月設備稼働率
- 米 8月ミシガン大学消費者マインド(速報値)
本日のコメント
前日、ベッセント財務長官がブルームバーグとのインタビューで、「9月の0.5ポイント利下げを皮切りに、そこから一連の利下げを実施できるだろうと考えている。どのモデルを見ても、金利は恐らく150、175ベーシス・ポイント低い水準にあるべきだろう」と発言したことでNYでは株価が急騰し、ドル円では円高が進みましたが、昨日の東京市場でも「私見だが、日銀は後手に回っており、利上げするだろう」と語ったことが影響し、絶好調だった日経平均株価は一時700円を超える下落。ドル円も147円台前半から146円22銭前後まで売られました。いわば「ベッセント・ショック」に市場参加者は翻弄された格好でした。市場のセンチメントがやや転換する兆しを見せたこともあり、個人投資家からの電話照会も目立った一日でした。この発言について昨日、ベッセント長官は「FRBに指図したわけではない」とFOXビジネスとのインタビューで釈明していました。ベッセント氏は「私が言ったのは、金利を中立水準にするには推定150ベーシス・ポイントの引き下げになるということだ。その水準にするよう要求はしていない」と話していました。トランプ政権の中枢にいるベッセント氏は、政権の中では比較的中立で、事態を冷静に分析できる人物である印象でしたが、やや「トランプ化」してきたことが懸念されます。
「7月の生産者物価指数(PPI)」が想定以上の上振れでした。前月比では「0.9%上昇」(市場予想は0.2%上昇)で、前年同月比では「3.3%上昇」(市場予想は2.5%上昇)と、3年ぶりの大幅上昇でした。関税に関連する輸入コストの上昇を企業が価格に転嫁しつつあることが伺えます。ネーションワイドのシニアエコノミスト、ベン・エアーズ氏はリポートで、「これまで企業は関税コストの大部分を負担してきたが、輸入品のコスト上昇により利益率がますます圧迫されている」と指摘し、「今後数カ月に関税の消費者価格への転嫁が一段と強まる見込みで、2025年下期にはインフレ率が緩やかに上昇する可能性がある」と述べていました。7月の雇用統計がサプライズであったことから、労働市場の急激な鈍化が利下げ観測を大きく上昇させ、9月のFOMC会合では「ほぼ100%利下げが行われる」といった状況にまで市場の見方が高まりましたが、昨日のPPIの結果が再び「労働市場かインフレの、どちらの方が優先順位が高いか」という問題を突きつける結果になりました。
FOMCメンバーの中でも見方は分かれています。サンフランシスコ連銀のデーリー総裁は、米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)とのインタビューで、9月のFOMC会合で0.5ポイントの利下げを行う必要性に異議を唱えています。総裁は「0.5ポイントというのは、われわれが緊急性を認識しているように聞こえる。労働市場について私が感じているものとは違う緊急シグナルを発することになると懸念する」と発言。デーリー氏は「そうは見ていないし、遅れを取り戻す必要も感じない」と述べていました。デーリー氏は7月のFOMC会合では金利据え置きを支持していました。
また、セントルイス連銀のムサレム総裁は、9月のFOMC会合で利下げを実施するかどうか判断するのは時期尚早だとの見解を示していました。ムサレム氏は14日、米経済専門局CNBCとのインタビューで、9月の会合で「私自身としてどういった政策を支持できるかを正確に述べるのは時期尚早だ」と語り、9月会合で0.5ポイントの利下げが正当化され得るかとの質問には、「経済の現状や見通しを踏まえれば支持されない」と語っています。ただ、ムサレム氏は、「データは、より持続的なインフレの可能性があるかどうかを示し始めている。労働市場には下振れリスクがある」と指摘した上で、「私は両方の要素を意識している」とし、「われわれの2つの責務の間に緊張が見られる場合は、バランスの取れたアプローチで臨む必要がある」と話していました。
日本時間16日午前4時半に、アラスカ州アンカレッジにある米軍基地でトランプ大統領とロシアのプーチン大統領が首脳会談を行います。これに先立ち13日にはトランプ氏とウクライナのゼレンスキー大統領、さらに欧州首脳たちによるオンライン会合が開かれ、欧州首脳は「トランプ氏から首脳会談では領土交換は検討しない」との言質をとったと話しています。ロシアとウクライナの停戦を何としても実現したいトランプ氏は、ウクライナに対して領土の一部を割譲すべきと主張していましたが、欧州首脳が関与したことで、ロシア寄りと批判されていた形勢が修正された形です。プーチン氏は14日に開催したロシア大統領府高官との会合で、米国がウクライナとの戦闘を止めるため「非常に精力的かつ誠実な努力」をしていると称賛。戦略的攻撃兵器の管理に関する合意は「両国間、欧州、世界全体に、長期的に平和な状況をもたらす」と、一転して柔軟な姿勢を見せていました。ウクライナでの停戦にプーチン氏が応じない場合、「非常に重大な結果をもたらす」としたトランプ氏の警告も背景にありそうです。ドル円は昨日146円台前半まで売られましたが、依然として145−150円のレンジ内での動きが続いています。上でも触れましたが、今後は「労働市場かインフレの、どちらの方が優先順位が高いか」という点が焦点になります。
本日のドル円は146円50円〜149円程度を予想します。
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What's going on?
会話でよく使われる砕けた言い方で「何があったんだ?」「どうなっているんだ?」というような意味。為替はさまざま事が原因で動きます。その動いた要因を確認する意味で「What's going on ?」というタイトルを付けました。
日時 | 発言者 | 内容 | 市場への影響 |
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8/14 | ムサレム・セントルイス連銀総裁 | (9月の会合で)「私自身としてどういった政策を支持できるかを正確に述べるのは時期尚早だ」、(9月会合で0.5ポイントの利下げが正当化され得るかとの質問に)、「経済の現状や見通しを踏まえれば支持されない」、「データは、より持続的なインフレの可能性があるかどうかを示し始めている。労働市場には下振れリスクがある」、「私は両方の要素を意識している」、「われわれの2つの責務の間に緊張が見られる場合は、バランスの取れたアプローチで臨む必要がある」 | -------- |
8/14 | デーリー・SF連銀総裁 | 「0.5ポイントというのは、われわれが緊急性を認識しているように聞こえる。労働市場について私が感じているものとは違う緊急シグナルを発することになると懸念する」、「そうは見ていないし、遅れを取り戻す必要も感じない」 | -------- |
8/13 | ベッセント・財務長官 | 「9月の0.5ポイント利上げを皮切りに、そこから一連の利下げを実施できるだろうと考えている。どのモデルを見ても、金利は恐らく150、175ベーシス・ポイント低い水準にあるできだろう」、「トランプ大統領も望んでいる」、「日本はインフレ問題を抱えており、確実に日本からの波及がある」、(日銀の植田総裁と話したこと明らかにしたうえで)、「これは総裁の見解ではなく、私見だが、日銀は後手に回っており、利上げするだろう」 | 株と債券が買われ、金利が低下したことでドル円は147円08銭まで下落。 |
8/12 | バーキン・リッチモンド連銀総裁 | 「米経済の先行きに対する不透明感は薄れつつあるものの、FRBがインフレ抑制と雇用の下支えのどちらに重点を置くべきかは、依然として明確ではない」 | -------- |
8/12 | シュミッド・カンザスシティ連銀総裁 | 「経済が勢いをなお維持し、企業の楽観的な見方が強まり、インフレが当局の目標を上回る水準にとどまる中では、緩やかな引き締め状態にある金融政策スタンスを当面維持するのが適切だ」 | -------- |
8/7 | ポスティック・アトランタ連銀総裁 | 「年内に1回の利下げが実施される可能性が高いとの見通しは変わらない」、「関税の影響が一時的なものなのか、あるいはもっと持続的なものなのかという点が、現時点では恐らく最も重要な問題だ」、「この日発動された関税の影響が、一時的な物価上昇にとどまるという教科書的な関税の例に当てはまるには、いくらか会懐疑的な理由がある」、「これは一度きりで、ある朝目が覚めたら全ての関税が明らかになっているという話ではない。むしろ、関税が頻繁に変化することで、消費者の意識の中に関税や物価上昇見通しが浮かぶ期間が長くなり、インフレ期待が高まるリスクがある」 | -------- |
8/6 | カシュカリ・ミネアポリス連銀総裁 | 「景気は減速している。短期的にFF金利の調整を開始することが適切になる可能性がある」、「関税の影響が明確になるまで、どれくらい待てるのか、それが現在、私を悩ませている。最良の選択肢が、多少の調整を行い、その後に一時停止や方向転換を迫られる展開であっても、関税の影響が明確になるまで何もしないで待つより望ましい可能性がある」 | -------- |
8/6 | クック・FRB理事 | 「7月の雇用統計は懸念すべき内容だった。こうしたデータの修正は転換点でよく見られる傾向だ」 | -------- |
8/4 | デーリー・SF連銀総裁 | (先週のFOMCの決定について)、「もう1会合見送る用意はあったが永遠に待つことはできない」、「インフレが加速・波及したり、雇用市場が持ち直したりすれば、2回未満の利下げでも十分かもしれないが、より可能性が高いのは、2回を超える利下げが必要になるかもしれないことだと考える。労働市場が弱い局面に入りつつある一方で、インフレへの波及が見られない場合、さらに措置を講じる準備も必要というのが私の見解だ」 | -------- |
7/30 | FOMC声明文 | 「経済活動の伸びは緩やかになった。景気見通しに関する不確実性は依然として高い。委員会は長期にわたって最大限の雇用と2%のインフレを達成することを目指し、2つの責務の両サイドに対するリスクに注意を払っている」 | -------- |
7/30 | パウエル・FRB議長 | 「解決すべき不確実性は非常に多い。そのプロセスの終わりが間近に迫っているという感触はない」、(利下げ次期については)、「9月については何も決定していない」 | ドル円は買われ、149円54銭まで上昇。 |
7/24 | ラガルド・ECB総裁 | 「現在の状況は良好だ。今は金利を据え置き、リスクが今後数か月の間にどう展開いていくかを見守ることが適切な状況にある」 | -------- |
7/24 | ECB声明文 | 「これまでのところ経済は全体として底堅さを示している。しかし、通商摩擦をはじめとする要因により、依然として先行きは極めて不透明だ」 | -------- |
7/10 | デーリー・SF連銀総裁 | 「2回の利下げというのが可能性の高いシナリオだと私はみているが、あらゆる当局の予測には不確実性が伴う」 | -------- |
7/10 | ペンス・元副大統領 | 「われわれは主に中国を対象に、相手の行動の変化を促すべく関税やその脅威を交渉手段として用いた。目的は本質的に貿易障壁を下げ、貿易を拡大することだった」、「トランプ氏は米産業政策の長期的な転換を進めており、恒久的かつ一方的な貿易関税が米国にとって長期的に有益だと見なしているとは、私は考えていない」、「自由市場を信奉する保守派として、私はそれには賛同できない」 | -------- |
7/2 | バーキン・リッチモンド連銀総裁 | 「経済指標は非常に堅調だ。経済が悪い方向に進んでいるという切迫感はない。また、経済環境全体に切迫感がない限り、霧の中を運転するように、ゆっくり進むのが妥当だ」、「現時点で政策金利を引き下げる緊急性はない」 | -------- |
7/1 | パウエル・FRB議長 | 「(関税の行方に)われわれは注視している。夏にかけていくらかの数値が上がると予想している」と話し、その上で「ただし影響が想定より高いのか低いのか、あるいは遅いのか早いのかは、今後明らかになる可能性があるとして、それを確認する用意がある」、(月利下げについては)「検討は会合ごとに行われる。どの会合も選択肢から排除しないし、直接的に議題に上げることもしない。データがどう展開するかにかかっている」 | 利下げの可能性を排除しなかったことで、ドル円はやや売られる。 |
外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算20年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
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