「日本への関税30−35%?」
ひと目で分かる昨晩の動き
NY市場- 東京市場の流れを引き継ぎドル円は続落。経済指標の悪化にドル円は143円台を割り込み、一時は142円69銭と、およそ1ヵ月ぶりの円高を記録。ただ、その後に発表されたJOLTSが上振れしたことで143円台前半まで反発。
- ユーロドルは続伸し、1.1817まで上昇。ユーロ高が続いていることで、ECBメンバーからは、インフレ率の安定に支障をきたすとの意見も。
- 株式市場では、最高値更新をしている2指数が反落。一方ダウは400ドルを超える上昇に。
- 債券は小幅に下落。長期金利は4.24%台に上昇。
- 金と原油はともに反発。
6月ISM製造業景況指数 → 49.0
6月S&Pグローバル製造業PMI(改定値) → 52.9
5月雇用動態調査(JOLTS)求人件数 → 7769千件
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ドル/円 | 142.69 〜 143.81 |
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ユーロ/ドル | 1.1762 〜 1.1817 |
ユーロ/円 | 168.59 〜 169.52 |
NYダウ | +400.17 → 44,494.94 |
GOLD | +42.10 → 3,349.80ドル |
WTI | +0.34 → 65.45 |
米10年国債 | +0.014 → 4.242% |
本日の注目イベント
- 豪 豪5月住宅建設許可件数
- 豪 豪5月小売売上高
- 欧 ユーロ圏5月失業率
- 米 6月ADP雇用者数
本日のコメント
「日本には30−35%の関税を支払ってもらう」・・・。トランプ大統領は専用機の中で、記者団にこのように話しました。「日本との関税交渉が実現できるか疑わしい」と述べながら、近く交渉結果を通告する手紙を送った上で「30―35%払ってもらう」と、これまで重ねてきた交渉が全て無駄だったと思わせる発言を行いました。トランプ氏は日本について、「とても強硬だ」とも発言し、コメ問題や自動車について不満を述べていました。昨日の「今週のレンジ予想」でも書きましたが、先週赤沢経済再生相が7回目の訪米を行い、当初予定されていた帰国予定日を延長しましたが、ベッセント財務長官とは一度も会談できずに帰国しました。筆者はその時点で、「終わった」と感じていました。トランプ氏は関税発動期限の延長は「しない」と述べており、ホワイトハウスの当局者も、各国との関税協議では日本との交渉は後回しにすることを明らかにしています。
ベッセント財務長官は1日FOXニュースとのインタビューで、日本との関税交渉を巡る質問に対して、米国民にとって取引が公平でない場合、トランプ大統領から受け入れないよう指示されていたと述べています。これが、赤沢氏が米国での滞在期間を延長してもベッセント氏に会えなかった本当の理由でしょう。ベッセント氏は、「トランプ氏がここ数か月で行ったことを考えてほしい。われわれは国際貿易システムのリバランスに取り組み、米国民にとって公平なものにしつつある。米国民にとって不公平な取引なら受け入れないよう、トランプ大統領はわれわれに指示していた」と語っていました。ベッセント氏は正直すぎるとも思いますが、9日までの残された時間が少ない中、日本が余程米国にとって有利な条件を提示しない限り、高関税が課される可能性が高まってきました。石破首相の対応が注目されます。期限までの1週間、為替を含めた金融市場はさらに乱高下する公算が高くなったと予想しています。
ドル円はおよそ1ヵ月ぶりに142円台半ばまで売られましたが、ここから下の水準ではドル買い意欲も強いようです。ここ2ヵ月ほど、ドル円は142円前後までは売られましたが、ここからさらに大きく売られることはなかったことで、この水準が目先のサポートになっています。米国の利下げ観測の高まり、トランプ関税での高税率の賦課、さらに言えば、今月20日の「参議院選挙」の行方など、金融市場を乱高下させる材料には事欠きません。積極的に円を買う動きはありませんが、それでもドルの上値が重いのも現実です。
昨日はポルトガルで行われたECBの年次フォーラムでパウエル議長は中央銀行総裁らとともに公開討議に出席し、「(関税の行方に)われわれは注視している。夏にかけていくらかの数値が上がると予想している」と話し、その上で「ただし影響が想定より高いのか低いのか、あるいは遅いのか早いのかは、今後明らかになる可能性があるとして、それを確認する用意がある」と述べていました。7月利下げについては「検討は会合ごとに行われる。どの会合も選択肢から排除しないし、直接的に議題に上げることもしない。データがどう展開するかにかかっている」と、先月18日のFOMC会合後の会見とおおむね同じ発言を行っていました。また、このフォーラムには植田日銀総裁も参加しており、「政策を判断するにはもう少し情報が必要だ」と、利上げを急がない姿勢を示唆していました。このフォーラムでの発言を受けて、FRBの利下げ確率は五分五分、日銀の利上げ確率はほぼないと考えています。
本日のドル円は142円30銭〜144円30銭程度を予想します。
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What's going on?
会話でよく使われる砕けた言い方で「何があったんだ?」「どうなっているんだ?」というような意味。為替はさまざま事が原因で動きます。その動いた要因を確認する意味で「What's going on ?」というタイトルを付けました。
日時 | 発言者 | 内容 | 市場への影響 |
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7/1 | パウエル・FRB議長 | 「(関税の行方に)われわれは注視している。夏にかけていくらかの数値が上がると予想している」と話し、その上で「ただし影響が想定より高いのか低いのか、あるいは遅いのか早いのかは、今後明らかになる可能性があるとして、それを確認する用意がある」、(月利下げについては)「検討は会合ごとに行われる。どの会合も選択肢から排除しないし、直接的に議題に上げることもしない。データがどう展開するかにかかっている」 | 利下げの可能性を排除しなかったことで、ドル円はやや売られる。 |
6/26 | コリンズ・ボストン連銀総裁 | 7月会合までに得られるデータは、あと1ヵ月分に過ぎない。それ以上のデータを確認したいと考えるだろう」 | -------- |
6/26 | グールズビー・シカゴ連銀総裁 | 「インフレが当局の目指す2%へと明らかに減速し、経済見通しを巡る不確実性が後退すれば利下げ再開もあり得る。良好なデータが得られており、関税の影響も限定的にとどまるかもしれないと楽観しているが、確証を待ちたい」 | -------- |
6/26 | バーキン・リッチモンド連銀総裁 | 「どの方向にせよ、性急に進むことには得るものがほとんどない。現在の経済の強さを踏まえれば、われわれには情勢の展開を辛抱強く見守り、見通しが明確になるまで待つ時間がある」 | -------- |
6/26 | デーリー・SF連銀総裁 | 「私の中心的な見方としては、秋ごろから金利の調整が開始できるというものであり、その考えは特に変わっていない」、「労働市場には減速の兆しはあるものの、悪化を示す警告サインは見られない」 | -------- |
6/25 | パウエル・FRB議長 | 「関税が消費者物価に及ぼす影響を金融当局としてまだ見極めきれていない。関税のうちのどの程度がインフレとして表面化するのか、前もって予測するのは非常に困難だ」 | -------- |
6/24 | ハマック・クリーブランド連銀総裁 | 「現行の金利はわずかに景気抑制的な水準だが、当局の目標達成までにはまだ一定の距離がある」、「政策金利はFOMCがごく緩やかな利下げで中立的な水準に戻す前に、かなりの期間据え置かれる可能性が高い」 | -------- |
6/24 | バー・FRB理事 | 「経済は現在、堅調な足どりを見せている。失業率は低水準で、インフレはFRBの目標の2%に向けて低下してきている」、「ただ今後を見据えると、関税の影響でインフレは加速すると予想する。短期のインフレ期待の高まり、サプライチェーンの調整、そして二次的影響により、インフレはやや長引く可能性がある」 | -------- |
6/24 | ボスティック・アトランタ連銀総裁 | 「関税やその他の政策論争がどのように進展するか見守るための、余裕と時間はある」 | -------- |
6/24 | ウイリアムズ・NY連銀総裁 | 「政策変更が労働市場とインフレに及ぼす影響を当局者が分析する間、金利を据え置くことは完全に適切だ」 | -------- |
6/24 | パウエル・FRB議長 | 「当面は、政策スタンスの調整を検討する前に、経済の進路についてより多くの情報が得られるのを待つ体制が整っている」、(7月の利下げの可能性について問われ)、「インフレ圧力が本当に抑制されたままだということになれば、早めに利下げに踏み切ることになるだろう」、「特定の会合を指すことは避けたい。経済は依然として強く、急ぐ必要はないと考えている」 | -------- |
6/23 | ボウマン・FRB理事 | 「インフレ圧力が抑制されたままであれば、政策金利を中立水準に近づけ、健全な労働市場を維持するために、次回の会合で利下げを支持する」、(「トランプ関税」について)、「関税などの政策によって重大な影響が出ているという明確な兆候はデータには表れていない。多くの企業が事前に積み増していたため、関税によるインフレへの影響は当初の予想より表れるまでに時間がかかり、影響の度合いも当初予想より小さくなる可能性が高いと考えられる」 | 中東情勢の好転もあり、ドル円は148円前後から146円台前半まで下げる。 |
6/18 | パウエル・FRB議長 | 「政策スタンスの調整を検討する前に、経済の見通しについてより多くの情報を持てる状況にある」、(経済の不確実性が高いことを踏まえ)、「誰もこうした金利の道筋に強い確信を持っていない。景気見通しに関する不確実性は低下したが、依然として高い」 | ドル円は144円台半ばから145円台に。 |
6/18 | FOMCの議事録 | 「最近の複数の指標は経済活動が堅調なペースで拡大を続けていることを示唆する。失業率は低いままで、労働市場の状況は堅調を維持している。インフレは幾分高止まりしている」 | -------- |
6/11 | ベッセント・財務長官 | 「誠意を持って交渉している貿易相手国に対しては、発動時期をさらに延長する可能性が極めて高い、そうでない国に対しては延期をしない」・・議会証言で。 | -------- |
6/6 | トランプ・米大統領 | 「FRBの『手遅れ』は最悪だ」(『Too late 』at the Fed is a disaster )とSNSに投稿。「欧州は利下げを10回実施したが、われわれは一度も行っていない。彼にもかかわらず、我が国は好調だ。1ポイント利下げを実施せよ、ロケット燃料になる」 | -------- |
6/5 | ラガルド・ECB総裁 | 「私たちは、新型コロナウイルス、ウクライナでの不当な戦争、エネルギー危機など、複合的なショックに対応してきた金融政策サイクルの終盤に差し掛かっていると考える」、「現在、異なるプレイヤー、異なるパートナー、異なる政策を有する異なる時代に入っている。私たちは分析、評価、測定を継続し、2%の中銀目標を達成するため努力する」、(自身の任期満了前の辞任については)、「自らの使命を果たすこと、そして任期を全うすることを完全に決意している。私がECBを去る日はまだ来ない」 | ユーロドルは1.13台後半から1.1495まで買われる。 |
6/3 | ボスティック・アトランタ連銀総裁 | (このところ良好な物価データを目にしているものの)、「目にすべき進展という意味において、道のりはまだ長い。インフレに対する勝利宣言はまだしない」 | -------- |
外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算20年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
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