「ドル円、トランプ関税を巡る司法判断に大揺れ」
ひと目で分かる昨晩の動き
NY市場- 東京時間に大きく買われ、146円29銭辺りまで上昇したドル円はNYでは大きく反落。GDPが予想を下回ったことや、トランプ関税を違法とした国際貿易裁判所の判断に対し、連邦高等裁判所がその効力を一時停止する判断を下した。ドル円は143円台後半まで下落。
- ユーロドルは買われ、前日の高値を抜く1.1385まで上昇。
- 株式市場では3指数が揃って上昇。S&P500は23ポイント高。
- 債券は反発し、長期金利は4.41%台に低下。
- 金は反発し、原油は反落。
1−3月GDP(改定値) → −0.2%
新規失業保険申請件数 → 24.0万件
4月中古住宅販売成約件数 → −6.3%
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ドル/円 | 143.97 〜 145.07 |
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ユーロ/ドル | 1.1272 〜 1.1385 |
ユーロ/円 | 163.15 〜 164.02 |
NYダウ | +117.03 → 42,215.73 |
GOLD | +21.50 → 3,343.90ドル |
WTI | −0.90 → 60.94ドル |
米10年国債 | −0.059 → 4.418% |
本日の注目イベント
- 日 4月失業率
- 日 4月鉱工業生産
- 豪 豪4月住宅建設許可件数
- 豪 豪4月小売売上高
- 独 独5月消費者物価指数(速報値)
- 米 4月個人所得
- 米 4月個人支出
- 米 4月PCEデフレータ(前月比)
- 米 4月PCEデフレータ(前年比)
- 米 4月PCEコアデフレータ(前月比)
- 米 4月PCEコアデフレータ(前年比)
- 米 5月シカゴ購買部協会景気指数
- 米 5月ミシガン大学消費者マインド(確定値)
- 米 グールズビー・シカゴ連銀総裁、インタビュー番組に出演
本日のコメント
「トランプ関税」を巡る司法の判断で、ドル円は大きく上下しました。昨日の東京時間、米国際貿易裁判所がトランプ大統領の世界的な関税措置を巡り、「その多くの部分が違法だ」との判断を下し、差し止めを命じました。国際貿易裁判所の3人の判事からなるパネルは、トランプ氏が一部の関税措置を正当化するために国際緊急経済権限法(IEEPA)を適用したのは不当だとする民主党主導の州や中小企業グループの主張を全員一致で支持しました。トランプ氏はこの「IEEPA」に基づき、緊急事態を宣言した上で、大統領権限で想定を超える過激な高関税を発動しましたが、同裁判所は、そうした権限を大統領に認めているわけではないと指摘しました。原告の一角であるNY州のキャシー・ホークル知事は「我々はトランプ政権の馬鹿げた関税政策(ridiculous tariff policy)を提訴した。そして、勝利した」と裁判所の判断を高く評価していました。
ただ、これで終わらないのが米司法の複雑さです。同裁判所の判断に対して、今度は連邦高等裁判所がその効力を一時的に停止する判断を下しました。高裁はその間、トランプ政権が求める長期的な効力停止の是非を検討するとしています。トランプ政権はこれに先立ち、高裁が効力の停止の要請に直ちに応じなければ、連邦最高裁に介入を求めることを表明しています。これについて専門家は、「今回の判決はトランプ政権の関税政策にとって後退を意味するが、米国の主要貿易相手国にとって最終的な結果は変わらないかもしれない。現時点で、トランプ政権は関税を課す別の方法を見出すと予想している」と説明していました。昨日の日経平均株価は、エヌビディアの決算を好感して上昇しましたが、後場にはさらに、上記米国際貿易裁判所の判断も好材料となり700円以上上昇。株価の上昇にドル円も146円台前半まで買われました。
石破首相は昨日、トランプ大統領と25分ほど電話会談を行いました。会談後首相は、具体的な内容については明らかにしませんでしたが、「お互いの理解は一層深まった」と述べ、「打ち解けた雰囲気で実に率直な意見交換を行った。関税措置については今後さらに担当閣僚間で議論を詰めて行くことで一致した」と話していました。赤沢経済再生相は本日第4回目の関税を巡る協議に向け訪米し、今回はベッセント財務長官と会談する予定です。日本側は農産物の輸入拡大に加え、防衛装備品の購入拡大も交渉のカードに加える模様で、昨日の石破・トランプ会談でも、その内容を事前に伝えている可能性もあります。安倍政権時代には、トランプ氏との会談で最新鋭戦闘機「F35」を大量に購入した経緯もあり、トランプ氏に対する交渉カードとしては機能しやすいように思えます。今回の赤沢氏の訪米も「トンボ帰り」会談となりますが、来週月曜日の相場に大きな影響が出る可能性があります。
最後もまたトランプ氏の登場です。パウエルFRB議長は29日、ホワイトハウスでトランプ氏と会談を行いました。この会談は、トランプ氏が2期目の大統領に就任して以来初となり、トランプ氏はパウエル氏に対して、「利下げを行わないのは、間違いだ」と伝えた模様です。FRBはその後声明を発表し、「パウエル議長は会談で、法律に定められている通り、自身とFOMCの同僚は、最大雇用と物価安定を支えるための金融政策を策定する。そしてそれらの決定は慎重で、客観的、かつ政治的に中立な分析のみに基づいて行うと述べた。議長は金融政策に関する自身の見通しについては議論しなかった。ただ、政策の道筋はあくまで今後入手する経済の情報と、それが見通しにとって何を意味するのかに左右されるという点を強調した」と記されています。(ブルームバーグ)時の権力にも左右されないパウエル議長の毅然とした対応は称賛されます。
本日のドル円は、143円〜145円程度を予想します。
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What's going on?
会話でよく使われる砕けた言い方で「何があったんだ?」「どうなっているんだ?」というような意味。為替はさまざま事が原因で動きます。その動いた要因を確認する意味で「What's going on ?」というタイトルを付けました。
日時 | 発言者 | 内容 | 市場への影響 |
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5/22 | ミラン・米大統領経済諮問委会(CEA)の委員長 | 「米国は強いドル政策を維持している」、(国際的なドル安協定の憶測について)「われわれが密かに進めているという事実はない。まったく根拠のない話だ」 | ドル円は143円台半ばから144台前半まで買われる。 |
5/21 | 米財務省声明文 | 「為替レートは市場で決定されるべきで、ドル円相場は現時点ではファンダメンタルズを反映しているとの共通認識を再確認した」(日米財務相会談を終えて) | ドル円は143円台半ばから144円40銭まで上昇 |
5/20 | ボスティック・アトランタ連銀総裁 | 「米国債市場のボラティリティにより、すでに高い不確実性がさらに高まる可能性があるが、市場の機能は現時点ではリスクになっていない」、「さらに不確実性が.加わることになれば、より正常なスタンスに戻るまでの時間が長引くと想定する必要が生じるだろう。なぜなら、状況の収束に今以上の時間がかかると考えるからだ」 | -------- |
5/20 | ムサレム・セントルイス連銀総裁 | 「米中が関税の大幅引き下げで合意して、5月12日に対立激化が和らいだ後でも、関税は短期的な経済見通しに大きな影響をもたらすように思える」、「今はインフレとの闘い継続に対する国民の信頼を維持すべき時だ。当局はインフレ期待を注視すべきだ」 | 利下げ観測の後退により、ややドルが買われる。 |
5/7 | パウエル・FRB議長 | 「発表された大幅な関税引き上げが維持されれば、インフレ加速と経済成長減速、そして失業増加をもたらす可能性が高い」、「インフレへの影響は、物価水準の一時的な変化を反映して短期的なものにとどまる」、「そのインフレ効果がより根強いものになる可能性もある」、「やることはこれまでと変わらない」、「今は予防的になれる状況ではない。さらなるデータを目にするまで、どのような対応が正しいのか実際のところ分からないからだ」 | ドル円は143円台から144円まで上昇。 |
5/7 | FOMC声明文 | 「経済見通しに対する不確実性は一段と強まっている」、「失業増加とインフレ加速のリスクは高まったと判断している」 | -------- |
4/24 | ハマック・クリーブランド連銀総裁 | 「6月までに明確かつ説得力のあるデータが得られ、その時点で進むべき正しい方向について判断できれば、委員会が動く可能性がある」 | -------- |
4/24 | ウォラー・FRB理事 | 「特に大規模な関税が再導入された場合、この先レイオフの増加や失業率の上昇が見られ始めても意外ではない。労働市場の悪化が顕著になれば、FRBの最大雇用の責務に基づき措置を講じることが重要だと考えられる」 | -------- |
4/23 | ベッセント・財務長官 | (日米通商交渉での)「通貨目標は一切ない」、「G7合意を尊重することを日本に期待している」 | ドル円は141円台後半から143円57銭まで買われる。 |
4/17 | ラガルド・ECB総裁 | 「貿易摩擦の激化が輸出を抑え、投資や個人消費に重荷になる」、「世界的な貿易混乱の拡大は、インフレ見通しの不確実性を高めている」 | -------- |
4/16 | ハマック・クリーブランド連銀総裁 | 「二重の責務の両面から圧力がかかることが想定される状況下では、インフレのさらなる高止まりのリスクと労働市場の減速に伴うリスクとの間でバランスを保つため、金融政策を現状維持とする根拠は強いと考える」、「明確さを得るのが困難な場合には、追加データを待つことが今後の道筋を見極める一助となるだろう」 | -------- |
4/16 | パウエル・FRB議長 | 「長期のインフレ期待をしっかり抑制し続け、物価水準の一時的上昇が継続的インフレ問題にならないよう確実に対処することが、われわれの責務だ」、「物価の安定がなければ、全ての米国民に恩恵をもたらすような長期にわたる力強い労働市場環境の実現は不可能だ」 | -------- |
4/4 | クルーズ・米上院議員 | 「政権が進める関税引き上げは、米経済にとって『巨大なリスク』となっており、来年の中間選挙で共和党が惨敗する恐れがある」、「世界各国からの輸入品に関税を課せば、国内の雇用は崩壊し、米経済に」深刻な打撃を与えることになる」 | -------- |
4/4 | ハセット・国家経済会議(NEC)委員長 | 「関税により米国の消費者物価が『幾分上昇するかもしれない』」、「エコノミストやFRB当局者、一部議員による懸念は行き過ぎだ」 | -------- |
4/4 | ベッセント・米財務長官 | 「新たな関税は必要な措置だ。リセッションを織り込まなければならない理由は見あたらない」 | -------- |
4/3 | ジェファーソン・FRB副議長 | 「政策金利のさらなる調整を急ぐ必要はない、というのが私の見解だ」 | -------- |
4/3 | クック・FRB理事 | 「現時点ではインフレは上振れ、成長は下振れするリスクがあるというシナリオをより重視している。インフレ率が上昇し成長は鈍化するというシナリオは、金融当局に困難な課題をもたらす可能性がある」 | -------- |
4/2 | トランプ・米大統領 | 「長年にわたり、大半において米国の犠牲の下に他国が富と権力を得る中、勤勉な米国民は傍観者の立場を強いられてきた。だが、今後われわれが繁栄する番だ」 | -------- |
4/1 | フォンデアライエン・欧州委員長 | 「必ずしも報復したいわけではないが、必要であれば、強力な報復策を用意しており、それを用いる」 | -------- |
外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算20年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
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