「米5月のPPI予想を下回る」
ひと目で分かる昨晩の動き
NY市場- ドル円は緩やかに下落し、NYでは143円19銭までドル安が進む。5月のPPIが市場予想を下回り、失業保険申請件数も増加傾向を示していることが利下げ観測を高めた。
- ユーロドルでもドル安が進み、ユーロは2021年10月以来となる1.1632まで上昇。
- 株式市場では利下げ観測の高まりから3指数が揃って買われた。
- 債券は3日続伸。長期金利は4.35%台まで低下。
- 金は大幅に続伸。原油は小反落。
5月生産者物価指数 → 0.1%
新規失業保険申請件数 → 24.8万件
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ドル/円 | 143.19 〜 143.90 |
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ユーロ/ドル | 1.1562 〜 1.1632 |
ユーロ/円 | 166.10 〜 166.68 |
NYダウ | +101.85 → 42,967.62 |
GOLD | +58.70 → 3,402.40ドル |
WTI | −0.11 → 68.04 |
米10年国債 | −0.061 → 4.359% |
本日の注目イベント
- 日 4月鉱工業生産(確定値)
- 独 独5月消費者物価指数(改定値)
- 欧 ユーロ圏4月鉱工業生産
- 欧 ユーロ圏4月貿易収支
- 米 6月ミシガン大学消費者マインド(速報値)
本日のコメント
ここ2日間で、ドル安が急速に進んできました。前日のNYでは145円台半ばまで買われたドル円でしたが、その直後に発表された「米5月の消費者物価指数(CPI)」が予想を下回り、インフレ懸念がやや後退したことでドルが売られ、144円台前半まで下げました。さらに昨日の朝方にはトランプ大統領が一方的に関税率を設定し、「今後およそ1週間半から2週間以内には、各国・地域に書簡を送る」と発表したことでドルは一段と売られ、東京時間では143円台後半まで売られました。トランプ氏は、「ある時点でわれわれたちは単に書簡を送るだけだ。理解されていると思うが、これがディールであり、受け入れるかどうかはあなた方次第だという内容になる」と語っていました。現時点では対中国と英国しか関税協議では合意に達していない状況の中、一方的に関税率を決め相手に通知するというやり方に、しばらく収まっていた「関税旋風」が再び吹き荒れるとの観測から、東京時間からドルが売られ株も大きく下落していました。
そして昨日のNYでは、「5月の生産者物価指数(PPI)」が、前日のCPIに続き、市場予想を下回りインフレ懸念をさらに払拭しただけではなく、労働市場にも鈍化を示す、かすかな変化が忍び寄ってきました。FRBによる利下げ観測が急速に高まり、債券と株が買われ、金利低下にドル円は143円台前半まで下げ、さらにユーロドルに至っては3年8か月ぶりの高値を記録しています。円とユーロが買われ、金も買われるなど、「全てドル安の裏返し」です。5月のPPIは前月比で見ると、最終需要向け財・サービスでは「0.1%」と、予想の「0.2%」を下回り、コアでも「0.1%」と、予想の「0.3%」を下回っていました。また、「個人消費支出(PCE)価格指数の算出に用いられるPPIの項目も、航空運賃とポートフォリオ管理手数料、医療ケアなども下がっており、全般に弱い伸びだった。」(ブルームバーグ)と言えます。PCEデータは27日に発表されます。労働市場にもやや変化が出ています。週間失業保険申請件数は前の週と変わらず「24.8万件」でしたが、より変動の少ない4週移動平均では「24.0万件」と、増加傾向を示しています。また、失業保険の継続受給者は5月31日終了週で「5.4万人」増加の「195.6万人」となっており、これは失業者が新たな就職先を見つけるのに時間がかかっていることを示唆しています。
これらのデータが直ぐにFRBの利下げにつながるほどのものではないとしても、利下げを後押しすることになります。FRBに利下げ圧力をかけ続けているトランプ大統領も、インフレ鈍化の兆候がさらに示される中で、米金融当局の利下げペースは十分でないと、従来の主張を繰り返し、「われわれは『遅すぎるパウエル』と呼んでいる。そうでないか?現在の高金利が政府の借り入れコストを押し上げている。インフレが再加速すればいつでも利上げができるだろう」と話しています。さらにパウエル議長の任期については、「フェイクニュースは『もしパウエル氏を解雇したら、大変なことになる』と騒ぐが、なぜ大変なことになるのかわからない。ただ私はパウエル氏を解任しない」と、ホワイトハウスで行われたイベントで述べています。トランプ氏のこれまでのパウエル氏の任期については一貫しておらず、数日前には「後任の議長を近く指名する」と述べていました。もしパウエル氏を解任すれば、フェイクニュースではなく、大変なことになるでしょう。独立した金融当局の政策に介入するだけでなく、最高責任者の首を挿げ替えることは、FRBの信用を失墜させ、FRBの金融政策の信頼性も失います。トルコのエルドアン大統領を彷彿させます。恐らく、株も売られ、債券も売られ、ドルも売られる「米国売り」につながる可能性が高いと思います。それはやはり、「大変なこと」なのです。
中東情勢に再び緊張が高まってきました。イスラエルが近くイランに対して軍事行動を取ることを検討していることで、イランが中東にある米軍施設を攻撃する可能性が高まってきました。米政府がイラクの米大使館の一部職員に退避命令を出しています。トランプ氏は、イスラエルがイランを攻撃する可能性について、「差し迫っているとは言いたくないが、十分起こりえる状況にあるようだ」と話していました。中東情勢の悪化から、金と、原油が上昇傾向を強め、リスク回避の流れが円買いにつながっている側面もあります。
石破首相は昨日国会での与野党党首会談で、米国との関税交渉では、「日米双方にとって利益となる合意を実現するということが重要で、早期に合意することを優先するあまり、日本の国益を損なうことはない」と発言し、取り方によっては「トランプ大統領の言いなりにはならない」という風にも取れ、やや強気の発言を行っていました。首相はその上で、首脳会談の日時に関しては「現時点で決まっていない」と語り、「会談前までに一定の前進があれば、それはそれでいい」と述べていました。
「トランプ関税」、「中東情勢」、「利下げ観測」と、ドル円を取り巻く環境は目まぐるしく変化する可能性がありそうです。本日のドル円は142円〜144円程度を予想します。
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What's going on?
会話でよく使われる砕けた言い方で「何があったんだ?」「どうなっているんだ?」というような意味。為替はさまざま事が原因で動きます。その動いた要因を確認する意味で「What's going on ?」というタイトルを付けました。
日時 | 発言者 | 内容 | 市場への影響 |
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6/11 | ベッセント・財務長官 | 「誠意を持って交渉している貿易相手国に対しては、発動時期をさらに延長する可能性が極めて高い、そうでない国に対しては延期をしない」・・議会証言で。 | -------- |
6/6 | トランプ・米大統領 | 「FRBの『手遅れ』は最悪だ」(『Too late 』at the Fed is a disaster )とSNSに投稿。「欧州は利下げを10回実施したが、われわれは一度も行っていない。彼にもかかわらず、我が国は好調だ。1ポイント利下げを実施せよ、ロケット燃料になる」 | -------- |
6/5 | ラガルド・ECB総裁 | 「私たちは、新型コロナウイルス、ウクライナでの不当な戦争、エネルギー危機など、複合的なショックに対応してきた金融政策サイクルの終盤に差し掛かっていると考える」、「現在、異なるプレイヤー、異なるパートナー、異なる政策を有する異なる時代に入っている。私たちは分析、評価、測定を継続し、2%の中銀目標を達成するため努力する」、(自身の任期満了前の辞任については)、「自らの使命を果たすこと、そして任期を全うすることを完全に決意している。私がECBを去る日はまだ来ない」 | ユーロドルは1.13台後半から1.1495まで買われる。 |
6/3 | ボスティック・アトランタ連銀総裁 | (このところ良好な物価データを目にしているものの)、「目にすべき進展という意味において、道のりはまだ長い。インフレに対する勝利宣言はまだしない」 | -------- |
5/22 | ミラン・米大統領経済諮問委会(CEA)の委員長 | 「米国は強いドル政策を維持している」、(国際的なドル安協定の憶測について)「われわれが密かに進めているという事実はない。まったく根拠のない話だ」 | ドル円は143円台半ばから144台前半まで買われる。 |
5/21 | 米財務省声明文 | 「為替レートは市場で決定されるべきで、ドル円相場は現時点ではファンダメンタルズを反映しているとの共通認識を再確認した」(日米財務相会談を終えて) | ドル円は143円台半ばから144円40銭まで上昇 |
5/20 | ボスティック・アトランタ連銀総裁 | 「米国債市場のボラティリティにより、すでに高い不確実性がさらに高まる可能性があるが、市場の機能は現時点ではリスクになっていない」、「さらに不確実性が.加わることになれば、より正常なスタンスに戻るまでの時間が長引くと想定する必要が生じるだろう。なぜなら、状況の収束に今以上の時間がかかると考えるからだ」 | -------- |
5/20 | ムサレム・セントルイス連銀総裁 | 「米中が関税の大幅引き下げで合意して、5月12日に対立激化が和らいだ後でも、関税は短期的な経済見通しに大きな影響をもたらすように思える」、「今はインフレとの闘い継続に対する国民の信頼を維持すべき時だ。当局はインフレ期待を注視すべきだ」 | 利下げ観測の後退により、ややドルが買われる。 |
5/7 | パウエル・FRB議長 | 「発表された大幅な関税引き上げが維持されれば、インフレ加速と経済成長減速、そして失業増加をもたらす可能性が高い」、「インフレへの影響は、物価水準の一時的な変化を反映して短期的なものにとどまる」、「そのインフレ効果がより根強いものになる可能性もある」、「やることはこれまでと変わらない」、「今は予防的になれる状況ではない。さらなるデータを目にするまで、どのような対応が正しいのか実際のところ分からないからだ」 | ドル円は143円台から144円まで上昇。 |
5/7 | FOMC声明文 | 「経済見通しに対する不確実性は一段と強まっている」、「失業増加とインフレ加速のリスクは高まったと判断している」 | -------- |
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書