今日のアナリストレポート[月〜金 毎日更新]

「ドル円急落。一気に141円台後半に」

ひと目で分かる昨晩の動き

NY市場
  • ドル円は急落。植田日銀総裁の発言が伝わり東京時間3時前後から下げ足を速め、NYでは一時141円71銭までドル安が進む。
  • ユーロドルは前日とほぼ同水準で推移。その結果、ユーロ円は153円台前半まで急落。
  • 株式市場は3指数が揃って反発。IT株が買われ、ナスダックは193ポイント高。
  • 債券は反落。長期金利は4.14%台に上昇。
  • 金は小幅に反落。原油も6日続落。
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新規失業保険申請件数 → 22.0万件
10月消費者信用残高 → 5.134b
7−9月期家計純資産 → 1312b
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ドル/円 141.71 〜 145.26
ユーロ/ドル 1.0764 〜 1.0818
ユーロ/円 154.30 〜 153.23
NYダウ +62.95 → 36,117.38ドル
GOLD −1.50 → 2,046.40ドル
WTI −0.04 → 69.34ドル
米10年国債 +0.042 → 4.146%

本日の注目イベント

  • 日 7−9月GDP(改定値)
  • 日 10月国際収支・貿易収支
  • 日 11月景気ウオッチャー調査
  • 独 独10月製造業新規受注
  • 独 独11月消費者物価指数(改定値)
  • 米 11月雇用統計
  • 米 12月ミシガン大学消費者マインド(速報値)

本日のコメント

「植田にやられた!」今朝の知人の第一声でした。

「年末から来年にかけて一段とチャレンジングになる」、植田総裁が昨日の参議院財政金融委員会でこのように発言したことが伝わり、東京時間の午後3時前辺りからドル円は下げ足を速め、これまでのサポートレベルであった146円台前半を抜け、欧州市場が参入すると節目と見られていた145円台も突破しました。NYではさらにその流れが加速。ストップロスのドル売りも巻き込み、一時は141円71銭までドルが売られました。今回の動きは「ドル暴落」というのではなく、「円の暴騰」といった様相でした。ユーロドルなど、円以外のドルストレートは大きく変わっておらず、ドル円も含め「クロス円」での巻き戻しが大量に持ち込まれたと解釈されます。

植田総裁の発言はもちろん予想することはできませんでしたが、筆者は先月末辺りから「ドル高トレンド」が転換した可能性に何度も言及してきました。昨日の下げはさすがに想定を越えるものでしたが、テクニカルでは的確にメッセージを送っていたことになります。そのテクニカルを軸に11月28日のコメントでは、『おそらくドル円は個人投資家の多くが「ドル高傾向は変わっていない」との相場観に基づき、ドルが下げたところでは確実に拾っていることが影響していると、個人的にはみています。筆者も現時点ではこの見方には賛成です。相場が「トレンド転換」したのかどうかの判断では、「日足」を軸に判断していますが、その「日足」では昨日の下げも「一目均衡表の雲の下限」で下げ止まっており、さらに雲の先端も上昇傾向を変えていません。ただ、一方で「一目均衡表」よりもサインの点灯が早い「MACD」では、ドル下落の兆候を示唆しています。言えることは、これまでとはドルを取り巻く環境が明らかに変わってきており、現在はその環境の変化が今後大幅なドル安につながるのか、あるいはこれまでにも何度か見られたように「ドル上昇の中での調整局面」であるのか、今はその「分岐点」にいるということです。そこは、今後特に柔軟なスタンスで相場と対峙していくことが重要で、あまり自身の相場観に囚われないことです。もし現在が「ドル安の入り口」であれば、下げ幅もこれまでとは大きく異なるからです。』と書きました。

また12月1日のレポートでも、『ドル円はNYでは148円台半ばまで買われましたが、本リポート執筆時時点では148円前後まで押し戻されています。このパターンは昨日も見られましたが、NYではドル高に振れるもののその後は続かず、市場も方向を決めかねていることがうかがえます。「MACD」では依然としてマイナス圏への動きを見せていることもあり、まだドルの上値は重いと見るべきでしょう』さらに12月4日には、『先週のコメントでも書きましたが、ドル円は目先152円手前でピークを付けた可能性があり、日足の「一目均衡表」でも「雲の下抜け」を完成させています。これまではドルが売られたら拾う展開でしたが、今度はドルが戻ったところを売る展開になってきたように思います。軟調な米経済指標が発表されてドルが売られても、直ぐに切り返して来たこれまでとは明らかに環境が異なってきました。米金利が大きく低下し、金利高に弱い「金が過去最高値」を更新し、NYダウも3万6000ドルの大台を超えてきました。この先円が買い戻されるようだと、クロス円での巻き戻しも活発になり、これがドル円を押し下げる一因にもなります。先週末のNYでのユーロ円の動きを見ると、それも感じられます。ただ、金利低下により株価がさらに上昇するようだと、リスクオンから低金利の円は売られ易い傾向があるため、この点には注意が必要です。目先は120日移動平均線の位置する146円35銭前後と、その下の200日移動平均線の143円70銭辺りが次のターゲットになろうかと思います』といった具合に、ドル下落の可能性に触れました。

それにしてもいつもの事ですが、ドルが下げる時のスピードには目を見張るものがあります。ドルロングの投資家にとっては背筋が凍る怖さを覚える瞬間です。特に今回の下落はドル高トレンドが変わっていないと考える投資家が依然として多くいる中、投機筋の円売りポジションも高水準の状況でのドル急落でした。植田総裁も、自身の発言に市場がこれほど反応するとは思っていなかったと思われますが、もう少し慎重な発言が望まれます。

昨日一日の下げはやや過剰反応とは思いますが、これで11月13日に記録した151円91銭が今年のドルの最高値であったことは決まりでしょう。昨年10月と今年10月、11月と3度も151円台後半までドル高が進んだにもかかわらず152円には乗せられなかったことから、このゾーンはかなり固いレジスタンスが形成されたと見ます。しかも今回は政府日銀の市場介入がなかった中(あくまでも現時点ですが)でのドル反落でした。今回の急落で、ドル円は140−145円レンジに入ったのかどうかはまだ判断できません。今夜の雇用統計が上振れすれば、容易に145円台には反発することも予想され、逆に下振れした場合には140円台テストの可能性も否定できません。下値のメドですが、大台の140円は言うまでもなく重要な水準ですが、11月高値まで上昇した起点を今年7月14日の137円43銭からだとすれば、この間の上昇幅の「半値戻し」は達成しています。「76.4%」では140円85銭程度となり、目先は意識される水準かと思います。

本日はボラティリティーが急速に高まって来た上に雇用統計もあり、レンジ予想は意味がありません。ドルの上値が重い中、どこまで戻りがあるのかが焦点でしょう。

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What's going on?

What's going on ?」とは・・・
会話でよく使われる砕けた言い方で「何があったんだ?」「どうなっているんだ?」というような意味。為替はさまざま事が原因で動きます。その動いた要因を確認する意味で「What's going on ?」というタイトルを付けました。
日時 発言者 内容 市場への影響
12/6 シュナーベル・ECB理事 「直近のインフレ率を見ると、追加利上げの可能性はかなり低い」、「11月のインフレ速報値は非常に嬉しいサプライズだった。最も重要なのは、より頑固だった基調的インフレ率が、予想以上に急激に低下していたことだ。これは驚くべきことだ。全体として、インフレの進展は心強い」 ユーロ安が進み、ユーロドルは1.0760まで売られる。
12/5 ブロック・RBA総裁 「インフレ率を合理的な時間枠で当局目標に確実に回帰させるため、金融政策のさらなる引き締めが必要かどうかはデータやリスクの評価に左右される」、「インフレ率を目標に回帰させる確固たる決意に変わりはなく、それを達成するために必要なことを行うつもりだ」 --------
12/1 パウエル・FRB議長 「かなり急ピッチでここまで来たあと、FOMCは慎重に前進している。引き締め不足と引き締め過ぎのリスクは一段とバランスが取れてきている」、「政策は今、かなり景気抑制的な領域に入っている」、「十分景気抑制的なスタンスを達成したと確信を持って結論付ける、あるいは金融緩和の時期について臆測するのは時期尚早だ。追加の金融引き締めが適切になる場合、そうする用意がある」 株式と債券が買われ、ドル円は148円台から146円台半ばまで下落。金価格も過去最高値を記録。
11/30 デーリー・SF連銀総裁 「政策は非常に良い位置にある。われわれは政策金利を大幅に引き上げてきた。インフレ上昇をヘッジするような保険的な思考は現時点では必要ない。金融当局はただ忍耐強く、警戒を怠らないようにすべきだ」、「私自身現時点では利下げは全く考えていない」 --------
11/30 ウィリアムズ・NY連銀総裁 「金利は過去25年で最も景気抑制的だと推定される。バランスを完全に取り戻し、インフレ率を当局の中長期的目標である2%へと持続的に低下させ、景気抑制的なスタンスをかなりの期間維持するのが適切になると想定される」 --------
11/29 バーキン・リッチモンド連銀総裁 「インフレは自然かつスムーズに下がってくるなら、素晴らしいことだ。しかし、インフレが再燃する場合は、金利に関してさらに行動するという選択肢を持っておきたいと思う」 --------
11/29 ポスティック・アトランタ連銀総裁 「いくつかの重要な流れに関して、明確性が増しているとの感触を持っている」、「われわれの調査や企業経営者らの情報に基づくと、インフレの下向き軌道は続く可能性が高いと思われる」、「われわれの情報では、経済活動は今後数カ月に減速すると考えられる。景気抑制的な金融政策と金融環境の引き締まりで経済活動が一段と抑制されていることが一因だ」 --------
11/28 グールズビー・シカゴ連銀総裁 「全体として、食品セクター以外ではインフレ面で進展を遂げてきた。下がってきてはいるが、まだ目標にまで低下していない。しかし、2023年はインフレ率の低下が過去71年で最大になる軌道にある」 --------
11/28 ボウマン・FRB理事 「私の基本的な経済見通しでは、インフレ率2%の目標まで時宜を得て低下させる上で、十分に景気抑制的な政策を維持するにはFF金利のさらなる引き上げが必要だと、引き続き想定している」、「しかし、金融政策はあらかじめ決まった軌道にはなく、経済見通しと適切な金融政策の道筋への影響を見極めるため、今後発表されるデータを注視していく」 --------
11/28 ウォラー・FRB理事 「経済を減速させ、インフレ率を2%に戻す上で政策が現在、好位置にあるとの確信を私は強めている」、「ここ数週間に目にした状況を心強く感じている。それは経済のペースだ」、「インフレは依然高過ぎで、最近の進展が持続可能だと確信するには時期尚早だ」 株と債券が買われ、金利が低下したことでドル円は148円台から147円台前半まで売られる。ユーロドルは3カ月ぶりに1.10台を回復。
11/21 FOMC議事録 「委員会は慎重に進む態勢にあり、各会合での政策判断は引き続き、入手する情報の全体像に基づいて行うことで全参加者の意見が一致した」、「参加者はインフレが過去1年間に減速したことを指摘しつつも、インフレは現在でもなお容認できないほど高く、委員会の中長期的目標である2%を大きく上回っていると指摘した」、「インフレが2%目標への道筋を明確にたどっていると確信するためには、さらなる証拠が必要になることも強調した」 ドル円は147円台から148円60銭まで上昇。株は売られ、債券は買われる。
11/14 バーキン・リッチモンド連銀総裁 「インフレ率が2%に下がる円滑な軌道にあるとは確信していない」、「米金融当局は正しい方向に向かっているが、最近のデータは米経済が驚くほど底堅いことを示唆している」 --------
11/14 グールズビー・シカゴ連銀総裁 2%の目標達成までにはまだ距離がある」、「財のインフレはすでに鈍化しており、住宅を除くサービスのインフレは通常、調整が遅れることが多いことから、向こう数四半期にさらなる進展を遂げるには、住宅関連のインフレ動向が重要になる。より一般的に言えば、インフレが低下していく過程では、常にいくらか紆余曲折がある」 --------
11/9 パウエル・FRB議長 「金融政策のさらなる引き締めが適切となれば、そうすることをためらわない」、「しかし、数カ月の良好なデータで見誤るリスクと、引き締め過ぎるリスクの両方に対処できるよう、引き続き慎重に行動していく」、(金融政策の当局者はインフレ率を目標の2%に下げることに注力しているが)、「そのようなスタンスを達成できたと確信していない」、「将来のインフレ抑制が供給サイドの改善によってどれだけ改善できるかは定かではない」 債券と株が売られ、長期金利が大きく上昇。ドル円は151円前後から151円39銭まで買われる。
11/9 植田・日銀総裁 「日本の現状を踏まえると、望ましい水準よりも低いインフレ率はオーバーシュートよりも対処が難しい」 --------
11/8 クック・FRB理事 「中東の紛争は世界的な人道・移民問題の悪化に加え、エネルギー市場や金融市場にさらなるリスクを生じさせる可能性がある」とし、「争いがエスカレートすれば経済活動や貿易の重しとなり、資金調達・生産コストを押し上げて、サプライチェーンが抱える問題の悪化やインフレ圧力の高まりにつながりかねない」 --------
11/8 ジェファーソン・FRB副議長 「経済見通しに強い不確実性がある場合であっても、インフレ期待が上昇し始めれば金融当局として強力に対応する必要がある」 --------
11/7 カシュカリ・ミネアポリス連銀総裁 「金融当局はまだインフレとの闘いに勝利していない。妥当な時間をかけてインフレ率を2%まで下げなければならない」、「そこに到達するためにどれくらいが必要なのかは、最終的には経済が教えてくれるだろう。私にはわからない」 --------
11/7 ボウマンFRB理事 「インフレ率を適切なタイミングでわれわれが目指す2%に低下させるには、さらなる利上げが必要になるとなおも予想する」 --------
11/7 シカゴ連銀・グールズビー総裁 「インフレ率を下げなければならない。それが最優先だ。われわれが注視しているのはまさにそれだと、強く断言する」、「次回FOMCまでにまだ数週間あり、まだ多くの情報がそれまでに出て来る。金利がどうなるのか、あらかじめコミットするのは好ましくない。自身はこれまでの利上げによる累積効果に経済がどのように反応しているのか、統計から犬のように嗅ぎ取ろうとする『データドッグ派』の一員だ」 --------
11/7 ブロック・RBA総裁 「適切な期間内にインフレ率の目標に確実に回帰させるため金融政策のさらなる引き締めが必要かどうかは、データやリスクを巡る評価に左右される」 豪ドルは発表後買われたが、その後発表前に水準を下回る。
11/5 ボスティック・アトランタ連銀総裁 「金融当局はこの緩やかで着実な姿勢を続けるというのが、今の私の見通しだ」 --------
11/5 カシュカリ・ミネアポリス連銀総裁 「統計は労働市場の減速を示唆している。われわれが待ち望んでいたことであり、助けられた。経済がバランスを取り戻しつつあることはさらなる安心を与えてくれるが、一つの雇用統計に過剰反応したくはない」 --------
11/5 バーキン・リッチモンド連銀総裁 「この日発表されたのは、雇用市場の漸進的な緩和を示すデータだ。追加利上げを望まない人々が望むような内容だと考える。インフレがどうなるかを見極める」 --------
11/1 パウエル・FRB議長 「慎重に進んでいる」、「経済活動が持続的に潜在成長率を上回っている兆候が、ないし労働市場の引き締まりがもはや緩和していない兆候が新たに見られた場合は、追加利上げが正当化され得る」 --------
11/1 FOMC声明文 「最近の複数の指標は、経済活動が3四半期に力強いペースで拡大したこと示唆する。雇用の伸びは今年の早い時期より緩やかになってきているが、強さを維持しており、失業率は低いままだ。インフレは依然として高水準にある」、「委員会は金融政策の累積的な引き締めや、金融政策が経済活動とインフレに与える影響の遅行性、経済や金融の情勢を考慮する」 2会合連続で据え置きを決めたことで、株と債券が買われ、ドル円は151円台から150円台半ばまで下落。
11/1 神田・財務省財務官 (為替介入の可能性について)、「スタンバイしている」、「いつ何をするか申しあげることは出来ない」、(急激な円安の背景については、内外金利差や地政学的なリスクなどさまざまな要因がある中で)、「一番大きいのは投機だ」、「総合的に勘案するとファンダメンタルズと合っていない。国民生活に対して影響が大きいので適切に対応をとらなければならない」 ドル円→151円台半ばから30銭程下落。
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外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和