ドル円はついに、週明け21日の午前中には140円台に突入しました。昨年9月17日以来、およそ7カ月ぶりの「ドル安・円高」水準です。今年1月の158円台後半からは、すでに18円程(約11.3%)もドルが売られたことになります。筆者も1月の「相場展望セミナー」では、「リスクシナリオ」での円の高値を140円に設定していましたが、ここからさらに円高方向に勢いを付けるようだと、想定をはるかに超える円高水準になります。そもそも、昨年11月にトランプ氏が大統領に返り咲いた時、筆者も含め多くの専門家が、米国内でのインフレ再燃を手掛かりに、株価の上昇とドル高を予想していました。ところが、インフレの兆候はまだ見極められないとしても、想定以上のトランプ関税の影響から日米の株価が大きく売られ、「リスク回避の円買い」が予想以上に広がりました。日米金利差という点では、思ったほど縮小してはいません。従って、ここまでは、株価の大幅下落が最も大きな円高要因だと言えます。
米国の今後のインフレに対する見方には、依然として再燃リスクが残っています。「25%の相互関税」は、90日間の猶予期間にあり、米国は貿易相手国と詰めの交渉を行っており、最終的にはそのまま25%が適用される国は少ないかもしれません。そうなると、米国内のインフレも思ったほど上昇しない可能性がありますが、それは同時に株価の上昇につながる可能性もあり、為替に対してどちらにより働くかは判然としません。
中国政府は21日各国に対して、米国と交わす貿易協定が中国の利益を損なうものであってはならないと警告しました。声明で、「他国が米国との貿易摩擦を解消することは認めるが、中国の利益を犠牲にする合意は断固として反対する。そのような事態は決して受け入れず、断固として対抗措置を講じる」としています。中国の習近平主席は先週、ベトナム、マレーシア、カンボジアを歴訪しており、これらの一連の行動に沿った内容の声明でした。米国との対立を鮮明にしている中国が、アジア圏での存在をより高めるため、「アジアの家族」戦略を推し進めているようです。中国はすでに米国なしでも、世界の最先進国、あるいはIT最先端国として、やっていける自信を付けているようにも思えます。「DeepSeek」などがそのいい例だと思います。昨日の北京では、ハーフマラソン大会にロボットが出場したことが話題にありました。出場した何台かの人型ロボットには、見るからにおかしな走り方をしていたロボットもいましたが、中には完走したロボットもおり、中国の技術力を見せつけられました。あの、ホンダの「アシモ」は、もう過去の遺物になってしまったんでしょうか。トランプ関税の強引さは、自国に製造業を回帰させたいというのはもちろんあるとしても、米国をも追い越しそうな中国にブレイキをかけるといった意味合いもありそうです。ドル円は、今夜にも140円を割り込む可能性もありそうです。
外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算20年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書。