「今日のアナリストレポート」でも述べましたが、先週末の「9月の雇用統計」は、満塁ホームランを放ったように、FRBにとっては起死回生の一打となりました。インフレの撲滅にはほぼメドがついたものの、高金利政策を長い間維持してきたことで、労働市場にも景気鈍化の影響が出て、雇用者数の伸びに急ブレイキがかかってきました。「物価の安定」がFRBの責務であると同時に、「雇用の最大化」もFRBに課せられた「デュアル・マンデート」の一つであるため、FRBは軸足を「インフレ」から「労働市場の立て直し」に移し、その強い意志の表れが9月のFOMCでの「50bpの利下げ」でした。大幅利下げを行うことで景気の活力を高め、消費が拡大することで、企業の求人を増やすといった計算があったと思います。そのため、このような雇用の弱い動きが続けば、11月の会合でも再び「50bpの利下げ」を行い、景気をさらに刺激するというものでしたが、労働市場はそれほど減速していなことが今回の発表で明らかになりました。今回の雇用者の上振れと、7.8月分の上方修正で、直近3カ月の平均では「15.6万人」となり、今年1〜3月の平均である「27.8万人」には及ばないものの、好調な数字だと言えます。問題は、この3カ月平均の数字が今後も維持されるのかどうかです。今回の雇用統計では、教育・レジャー・ヘルスケアそして、ホスピタリティなどで雇用者が増加しており、ISM非製造業景況指数と整合すると考えられます。
ただ一方で、雇用の増加と賃金の緩やかな上昇はインフレの再燃につながる可能性も否定はできません。おりからの原油高に加え、株式市場でも政策金利引き下げ観測を背景に株高が続き、NYダウは4万2350ドル台まで買われています。年初からは12.4%もの上昇です。また、代表的な株価指数であるS&P500も年初から約20%上昇しており、時価総額は8兆ドル(約1180兆円)あまり増えています。言うまでもなく、米国民は運用資産を株式市場に振り向けている割合が日本と比べるとはるかに大きいことから、いわゆる「資産国効果」を考えると、消費拡大にともない物価も再び2%を超え大きく上昇する可能性も考えられます。ドル円が149円台まで上昇したことで、ほぼ全てのクロス円でも円安が進みました。週明けの東京時間では149円台での取引は見られず、財務省の三村財務官が円安をけん制する発言を行ったことで148円台前半まで円が買い戻される場面もあり、ここからさらに大きく円が売られる展開でもなさそうです。東京時間では久しぶりの円安水準であることもあり、実需のドル売りもかなり持ち込まれている模様です。150円台までさらに円安が進めば、同財務官からのけん制発言がより強力なものになろうかと思いますが、焦点は年内に日銀による追加利上げがあるのかどうかという点です。円安が進めば進むほど、その可能性は高くなります。今週はFOMCメンバーの発言も多く予定されています。想定外の好調さを見せた労働市場の結果を踏まえて、メンバーがどのよう発言をするのか、内容次第ではこちらも相場に影響がありそうです。
外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算20年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書。