「5月の雇用統計」では、非農業部門雇用者数(NFP)が思ったほど鈍化しておらず、株高・債券安を伴って金利が上昇しドルが買われましたが、「今日のアナリスト・レポート」でも述べたように、3月、4月分のNFPが大きく下方修正されたことで、微妙な結果だったと言えます。7月の利下げ観測はやや後退しましたが、相変わらずトランプ大統領はパウエル議長に利下げ圧力をかけ、6日には「1%下げろ」と、具体的な数字にまで口を挟んでいます。さらにトランプ氏は「欧州は利下げを10回実施したが、われわれは一度も行っていない」と、利下げを直ちに実施するよう要求していました。ただ、これは正確な物言いではなく、FRBは今回の利下げ局面ではすでに3回も利下げを行ってきました。トランプ氏が今年1月に大統領に就任する直前の昨年12月の会合で0.25%引き下げており、それも3会合連続の利下げでしたが、それ以降は据え置いています。FRBが利下げを実施できないのは、それまで順調に低下してきたインフレ率が再び上昇気配を見せたからで、決してトランプ氏の政策に対抗しているわけではありません。もっとも、強硬な「トランプ関税」の政策でさらにインフレが加速するとの見方が一般的で、FRBはそのデータを確認するとしています。従って、トランプ氏は、正しくは「自分が大統領に就任してからは、まだ一度も利下げを行っていない」と言うべきでした。また、トランプ氏は「ECBは10回も利下げを行った」と言っていますが、筆者の手元の記録では2024年6月に今回の利下げサイクルが始まり、先週5日の利下げで合計8回かと思います。
今週は11日(水)に米国の「5月の消費者物価指数(CPI)」が発表されます。予想は先月の「0.2%」から加速して「0.3%」になると見込まれています。先週公表されたベージュブックでは、多くの地区連銀からは「一部の企業は関税コストを転嫁しつつある。家具や衣料、自動車部品といった分野では部分的な転嫁も見られる」と報告されており、小売りの分野で物価が上昇していると予想されています。また、基調的なインフレを示す指標として重視されている「コア指数」も、前年比で「2.9%」の上昇が見込まれています。(4月は2.8%)こうなると、トランプ氏がいくら利下げ圧力を強めようとも、FOMCメンバー全体の意見は政策金利据え置きで一致すると見られます。
日米通商協議についても、「今朝のアナリスト・レポート」で触れましたが、今朝のNHKは赤沢経済再生相の話として「事務方、閣僚で詰めるべきことが非常にたくさんある」と発言しており、「そういうものを最大限積み上げて、全体のパッケージとして一致点が見つかるような方向が出てくれば、総理とトランプ大統領に話してもらうことはあると思う」と、記者団に述べていたと報じていました。筆者は、赤沢・ベッセント会談では日本の提案に満足できず、合意点を見つけられなかったという印象を強めました。今日のロンドンでの2回目の米中協議では、ポジティブな見方が有力ですが、そうなるとEUと日本が最後の闘いの場となります。今週末には赤沢氏が6度目の訪米をし、そのままカナダで行われる「G7首脳会議」に流れ込む可能性も出てきました。
外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算20年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書。