米中通商協議の不透明感が増し、先週木曜日には108円24銭まで売られたドル円でしたが、週末にはクドロー米国家経済会議(NEC)委員長が一転して、「第一段階の合意が近い」と発言したことで、株価の上昇と相まってドル円は108円台後半まで戻しています。株価に比べて動きが鈍いドル円は(ドル円だけに限りませんが)上にも下にも動けず、極めて狭い範囲内でもみ合っています。
日米ともに株価が堅調に推移していることがドルの下落を抑制する一方、109円台では輸出筋を中心にドル売り注文が集まり、ドルの上昇を抑えているのが足元の動きです。また材料的には、10月のFOMCでは今年3回目の利下げを行ったものの、12月に予定されている今年最後のFOMCでは利下げの可能性は低く、「利下げサイクルの一旦休止」がドルを支える材料になっています。一方、欧州や中国の景気減速やBREXITの行方、さらには香港での民主化デモの激化など、ドルの頭を抑える材料も依然として払拭できていません。このような状況の中、市場が最も関心を持っているのが、依然として米中通商協議の成り行きです。先週はこれに加え、トランプ大統領の弾劾問題もややクローズアップされてきました。いずれにしてもドルに対する強弱材料が混在する中、株価の動きだけが突出しているといえる状況です。
本日の「アナリストレポート」でも触れましたが、第3四半期決算の数字はほぼ出揃い、その結果、世界景気は前年同期比で約8%の減益であることも判明しています。それでも先週末の米国株のように、主要3指数が揃って史上最高値を更新したことに筆者は違和感を覚えると述べましたが、週明けに入手した株式の専門家の見方は「強気相場」を裏付けるものでした。ドイツ証券が海外投資家700人にアンケートした結果では、足元では「3118」ポイントのS&P500は、「2900」に戻るより先に「3300」に到達するとする見方が多勢です。また、モルガンスタンレーのエコノミストらは、世界経済は2020年1−3月期から回復に向かうと予想しているといったものもありました。いずれも株価は今後も上昇すると予想しているものです。
このように動くと予想すれば、リスクオンがさらに進み、円や債券などリスク回避の際に買われるものが今後は売られることを意味し、ドル円は110円に向かうということになります。今しばらくはドルが買われ、110円方向に向かうとする見方には賛成ですが、中国景気の浮上が見込めない中、来年から世界景気が回復するかどうかは、個人的には非常に懐疑的です。
今週はそれほど重要なイベントがない中、ユーロが動く可能性があります。ラガルド新ECB総裁の講演や、ユーロ圏、ドイツで重要な経済指標が発表されます。
外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算20年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書。