4月の雇用統計サプライズを受け、108円台前半まで売られたドル円でしたが、その後今度は4月のCPIが高水準だったことからインフレ懸念が高まり109円台後半まで反発するなど、ドル円は経済指標の結果を受け上下する米長期金利に引っ張られる展開が続いています。米長期金利との相関性を強めているわけですが、その源を掘り下げれば、結局はFRBがどのタイミングで現行の金融緩和政策を正常に戻すのかに突き当たります。
新型コロナワクチンの接種進展に伴う経済活動の再開で、個人消費が再び伸び、好景気が訪れるという回復シナリオが「メインシナリオ」かとは思いますが、このところ発表された経済データにも強弱が見られます。そのためブルームバーグは、「最新のデータから浮かび上がる現実」と題して、「失業保険給付上乗せが失業者の間で仕事への復帰意欲をそいでいるとの議論や、このところの物価上昇がいかに懸念すべきものか、あるいは米金融当局が指摘するようにそれほど心配ないのかといった疑問について、どのように解釈をするにしても、経済が発しているシグナルは混乱に満ちている」と、必ずしも、メインシナリオ通りに景気回復が進むかどうか現状では判断できないとしています。先週末に発表された5月ミシガン大学消費者マインドは「82.8」と、市場予想を下回っただけではなく、2月以来の低水準でした。1年先のインフレ期待値が「4.6%」と10年ぶりの高水準で、消費者が今後予想される物価上昇に強い懸念を持っていることが数値の下振れにつながっています。物価上昇が続く中で雇用者の増加が進まないという状況が、FRBの今後の政策余地を狭めているようです。
今週は引き続きPMIなどの経済指標が注目されます。また住宅関連指標も多く出ますが、住宅市場に関しては低金利と株高などによる資産効果が続いており、予想を大きく下回る懸念は低いと思われます。ただ、住宅価格の上昇が続いており、人々が住宅購入を諦めざるを得ない状況になると下振れすることも考えられますが、まだその様な状況にはないと思われます。
ドル円は引き続き底堅い動きが続くと予想していますが、一方で110円を大きく超えて行くには材料不足の感は否めません。クロス円がじわりと上昇傾向を見せており、その意味でもドル円の下値を支える効果が見込めます。ただ、ユーロドルも底堅く、1.21台半ばでキャップされ上昇が抑えられているように見えますが、この水準を明確に上抜けすれば1.22台半ばが次のターゲットということになり、そうなるとドル円は108円前後まで下げる可能性もありそうです。ドル円は108−110円のレンジが予想され、仮に上抜けしても直ぐに111.112円を試す展開ではないと見ています。
外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算20年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書。