ここ1カ月ほどのドル円の動きは107円台後半から109円台後半と、約2円の値幅はありましたが、その実態は「ほぼ108円台での動き」と言えます。2月から3月にかけて大きく動いた相場つきとは大きく異なっています。もちろん米長期金利の急騰がその背景にあり、2月初めには1.08〜09%だった米長期金利はその後1.77%台まで上昇し、ドル円を大きく押し上げました。その長期金利の動きもこのところ小動きで、1.5〜1.6%台で収まっており、根強い金利先高観があるものの、その割には上昇が抑制されている状況が続いています。
今週は本日のブレイナード・FRB理事の講演と、明日行われるクオールズ・FRB副議長の議会証言に注目が集まります。先週発表された4月のFOMC議事録では、一部の委員がテーパリングの議論を開始することが適切との意見を出していたことが明らかになりました。ダラス連銀のカプラン総裁は講演で、「アクセルをそっと緩めるのが賢明だろう。そうすることで、われわれはより効果的にこの移行を乗り切ることが可能になる」と述べるなど、テ−パリングに関する議論を開始すべきとの立場を明らかにしています。カプラン総裁以外にもメンバーの中には「タカ派」の委員がいると見られますが、FRBのパウエル議長をはじめ、多くの主要メンバーは現時点では「時期尚早」との立場を崩していません。
米国では大規模な景気支援策の実施とコロナワクチン接種が進み、経済指標は先週はやや軟調な部分もありましたが、概ね好調と言える状況が続いています。消費活動が活発化し、それに伴って企業収益も上振れし、経済全体が好循環で回転するようになれば、当然物価は上昇してきます。物価上昇については既に4月のCPIがやや驚きを持って受け止められたように、今後も上昇圧力が続くものと思われます。特に米国ではこれから本格的な夏の旅行シーズン本番を迎え、折からのガソリン高が物価上昇に拍車を掛けることも予想されます。今年は特に「脱コロナ」ということもあり、人々の「レジャーモード」はこれまでの比ではない可能性もあると考え、消費者物価指数の下落要因はほとんどないと言えます。
いずれFRBによるテ−パリングは現実のものとなりますが、問題は雇用です。インフレ率だけを捉えれば、来月6月のFOMCでのテーパリング開始も驚きはありませんが、労働市場での回復がFRBの目標から依然乖離していることを考慮すれば、まだ時期尚早と言えます。4月の雇用者数はかなりインパクトのある予想外の増加数でした。労働市場の趨勢を見誤らないためにも、FRBは今後数カ月の数字を確認したいところでしょう。従って、6月の会合ではテーパリングの開始宣言はなく、あっても秋口からの開始を示唆するにとどまると予想し、実際の開始は11月の会合以降かと考えています。
FOMCメンバーの中でも政策変更を巡る意見は分かれています。その意味で、上記2人の重要なメンバーの発言が注目されます。また、政策決定に大きな影響を与えるPCEデフレータの発表も今週末にあり、こちらも注目されます。金利が上下することで、為替も大きく動く可能性があるかもしれません。
外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算20年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書。