円の弱さが続いています。先週はドル円が4月6日以来、約8週間ぶりに110円台を回復し、ユーロ円も134円台まで上昇。ポンド円に至っては2018年1月以来となる156円台まで円安が進みました。言うまでもなく、コロナワクチン接種の進捗率の違いから景気回復への道筋が見通せるかどうかの差が、如実に反映されている結果です。
米国ではインフレ率の上昇から、FRBによるテーパリング開始時期が焦点となっており、少なくとも先週のクラリダFRB副議長とブレイナードFRB理事の発言内容(参照・先週のアナリスト・レポート)を吟味すると、これまで「金融政策の議論は時期尚早」と、金利上昇は一時的との主張をかたくなに維持してきたFRBでしたが、その姿勢にもやや変化が出てきたと判断しています。今後のパウエル議長の発言にも変化が出て来る可能性があります。ただ、確かにインフレ率は上昇しており、高止まりしている足元の原油価格の推移を考えると、今後さらに物価上昇が続くことも予想されます。一方でもう一つ注視しなければならないのが、労働市場の動向です。4月の雇用統計では、事前予想で100万人ほどの増加が見込まれていた非農業部門雇用者数は26.6万人と、予想を大きく下回り、かなりの驚きを市場に与えました。今週末には早くも5月の雇用統計が発表されます。今回は65万人ほどの増加が見込まれていますが、これまで発表された新規失業保険申請件数から判断すれば、大きく下振れする可能性は少ないと思われます。FRBとすれば、労働市場の趨勢を読み誤らないために、今後2〜3カ月ほどの「実績」を確認したいところで、仮に順調に雇用増加が続くようなら、9月か11月のFOMCで、何らかのメッセージが発せられると予想しています。
このように米国だけではなく、既にテーパリングを開始したカナダや、利上げの可能性にも言及した英国、さらにはワクチン接種が順調に進んでいるユーロ圏など、金融政策の正常化への軌道を描いている国の通貨が買われる傾向にあります。このように考えると、ワクチン接種がOECDの中でも断トツに低い日本の円が売られるのも「むべなるかな」といった状況です。もっと言えば、仮にワクチン接種が急速に進み、円が買い戻されたとしても、さらに長い時間軸で考えたら、日本の国力の劣化は避けられず、円が売られる傾向が長く続くように思います。2021年度の出生者数は、コロナの影響もありますが戦後最低となり、このままいけば80万人を割り込むのではないかと言った予想もあります。いわゆる団塊の年である1947〜1949年には264万人が生まれた年もあり、このままでは3分の1以下ということになります。一方で高齢化はさらに進み、このままの状況では円が買われる理由を見つけるのに難儀します。子供の数が減り、高齢者が増える国の経済が伸びる余地は多くはないと言えるでしょう。6月のFOMCは15−16日に開催され、8日からはブラックアウト期間に入るため、今週のFOMCメンバーによる発言はほぼ会合前最後の機会かと思われます。発言内容には注意が必要かと思います。
ドル円は110円台での上値の重さを確認した格好で、やや反落することも予想されますが、深押しはないと見ています。引き続き米長期金利の動きと、日本のワクチン接種の進捗率にも目配りが必要かと思われます。
外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算20年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書。