先週はADP雇用者数が予想を大きく上回り、さらに失業保険申請件数も新型コロナウイルスのパンデミック以降で最も少ない件数を記録したことで、FRBによる金融正常化が早まるとの見方が強まりドル円は110円台を回復し、110円33銭までドル高が進みました。110円台を回復したものの、このまま110円台が維持できるかどうかに注目していましたが、残念ながら今回も110円台は維持できず、再び「元の鞘に」戻された格好になっています。
期待した5月の雇用統計では、非農業部門雇用者数(NFP)が市場予想に届かず、米長期金利が急低下したことで再び109円台前半まで押し戻されています。失業率は予想を上回り、雇用者数も予想には届かなかったものの「55.9万人」と、前月よりも改善していましたが、上述のように「期待値」が高かった分、失望感も強かったのではないかと思われます。4月のドル円高値である110円97銭は別としても、110円台半ば辺りから上方が「壁」になりつつあるのかもしれません。またドル円の方向性は決める米長期金利も1.7%前後が壁になりつつあるようです。米国では物価上昇が続き、先週末ロンドンで行われたG7の会合に主席したイエレン財務長官も「少なくとも前年比ベースでは、インフレ率の上昇が今年いっぱい続き、3%前後になるかもしれない」と足元の物価上昇を認めつつも、「幾分のインフレを目にしているが、恒久的だと私は考えていない」と述べ、あくまでも「一時的なもの」であるとの認識を変えていません。ただこれは、財務長官がインフレ率の上昇が今後も続くとの認識を示せば、株価が大きく売られ、長期金利が跳ね上がってしまうことは目に見えているため「現状追認を封印」しているに過ぎないと考えています。「イエレン・ショック」は避けたいはずですが、今後タイミングを見ながら、徐々に現状を追認していくのではないかと思います。
市場の関心はいつFRBが金融正常化へ舵を切り直すのかという「一点」に絞られます。そのタイミングが早まるのか、あるいは遅くなるのかによって、為替、債券、株式などほぼ全ての価格水準が決定されることになります。その意味で今週10日(木)には5月の米CPIが発表されます。市場予想は前月比「0.4%」の上昇と見ており、前月よりも物価上昇の勢いは衰えていると予想しています。これが予想を上回るようだと再びドル円を押し上げるものと思われます。また今週は同じく10日にECB理事会が開催され、金融政策の議論が行われます。政策変更はないと予想していますが、ユーロ圏でも米国同様物価上昇が続いているのも事実です。5月のユーロ圏の物価上昇率は前年同月比で「2.0%」でした。4月の「1.6%」から上昇幅を拡大しています。ワクチン接種が進み、ロックダウンの緩和が進む中、サービス価格を中心に物価上昇が続いています。ただそれでもECB関係者は、「資産購入の縮小は時期尚早」と繰り返し述べ、テーパリングには否定的な姿勢を維持しています。会合では現状維持と見ていますが、ラガルド総裁の会見での発言には注意が必要です。底堅い動きが続いているユーロドルは、1.22台半ばが「壁」になっています。この水準を抜けるようだと、ドル円でも下落圧力が増すことは、前回同様です。ドル円は底堅いと思われますが、ユーロの動き次第では109円割れも無いとはいえません。
外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算20年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書。