先週のドル円は終始109円台で推移し、極めて動きの乏しい週でした。木曜日には5月のCPIが発表され、前年同月比では「5.0%」と、2008年8月以来の高水準を記録しました。それでも109円台後半まで上昇したドル円は、110円を目の前にして上昇が抑えられ、なかなか110円台が見えてきません。背景の一つが米長期金利の低下傾向が挙げられます。週初1.55%台だった長期金利は週末には一時1.42%台まで低下しています。債券市場で入札が好調だったことも挙げられますが、今週のFOMCではハト派的に行動が予想されるとの見方も強まり、債券に買いが集まった結果です。反対に、長期金利が約1カ月ぶりの水準まで下げた割は、ドル円は健闘していると言えます。また、ユーロドルでは1.22台半ばがキャップされたように「壁」となり、週末には1.21台を割りこんだこともドル円をやや押し上げたと考えられます。
今週の焦点は何と言っても15−16日のFOMCです。7月、8月はFOMCが開催されないことから、夏休み前最後の会合となります。市場のコンセンサスは政策変更なしで一致していると見ていいと思いますが、焦点になるのはパウエル議長の発言と、同時に公表される「ドットチャート」の結果です。上述のように物価上昇は続いており、5月の物価上昇を受けた中でも、パウエル議長は再び「物価上昇は一時的だ」といった表現を使うのでしょうか?物価上昇の勢いは認めながらも、2カ月連続で市場予想を下回った労働市場がFRBの目標に達してはおらず、これがパウエル議長をしてハト派的なコメントに誘導するのではないかと考えます。労働市場ではミスマッチが起きており、サービス業を中心に人手不足が続いています。これが賃金を押し上げていますが、それでも人出不足は解消されていません。失業給付金に対する手厚い上乗せ部分が、労働者に安心感を与えており、この部分が9月まで継続されることで、労働市場の急回復は期待薄です。そのため、FOMCメンバーの多くは、今後数カ月の労働市場の動向を見極めたいとのスタンスを維持するのではないかと予想します。
このように考えると、今回のFOMCが市場に与える影響は限定的であると思われますが、「ドットチャート」がインパクトを与える可能性は残っています。FOMCメンバーが、利上げの時期が従来よりも早まる方向にシフトした場合、ドルが買われ、株と債権が売られ、長期金利が上昇する可能性が高まります。ただ足元の長期金利の動きは全く反対の動きを見せており、FOMC終了後の動きが注目されます。
市場全体のセンチメントはやや「リスクオン」といった状況です。ドルが底堅い動きを見せるなか、対ユーロも1.21台を割り込む水準までじわりと迫ってきました。109円台で膠着感の強まっているドル円ですが、今週のFOMCを終えても動きが出ないようだと、「夏休み相場」の到来は、思った以上に早まるかもしれません。
外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算20年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書。