先週のドル円は、セントルイス連銀総裁の発言をきっかけに、利上げ前倒し観測が強まり、NY株の急落に伴い109円台後半までドル売りが進む場面がありました。「リスク回避の円買い」の動きが強まり、「有事の円買い」をやや彷彿させましたが、長続きはしませんでした。ドル円はその後110円を回復したばかりか、111円12銭前後までドル高が進み、2020年3月以来となるドル高水準を記録しています。株価が戻り、「有事の円買い」よりも「リスクオンによる円売り」が勝った格好です。ナスダックやS&P500は連日で最高値を更新し、大量の資金がハイテク株を中心に株式市場に流れ込んだ結果かと思われます。米長期金利も1.4%半ばから1.5%台で安定的に推移していることも、投資家の安心感を助長しているとみられます。
予想以上に金利上昇が抑制されている米10年債利回りですが、JPモルガンの調査によると、それでも債券トレーダーは依然として米国債の下落を想定したポジションメイクを崩していないとブルームバーグがレポートしています。同行調査では、米経済の回復基調が続き、「物価上昇が一時的な脅威よりも大きいものになる」との見立てに基づき、米国債に弱気な見方はFOMC後に急減したものの、ここ数年間の最高水準付近にとどまっていることを示しています。ウェルズファーゴのマクロ戦略者マイク・シューマッハー氏は、「ここ3カ月は確かに厳しい展開だったが、われわれはなお米国債には弱気だ」と述べ、「恐らくテーパリングが利回り上昇の大きな引き金になるだろう」と語っています。
今週は2日(金)に6月の雇用統計が発表されます。すでに予想では非農業部門雇用者数が「70万人増加」と、先月の「55.9万人」から大幅に増えると見られています。労働市場の改善が続くようだと、FOMCでのテーパリング開始時期が早まる可能性があり、併せて金融正常化への道も早まるとの観測からドル高に振れる可能性があります。そうなると今年3月末に見られたように、株安、債券安が進み、金利上昇に伴いドル高が進んだ、あの状況が再現されることになるかもしれません。
個人的にも、今後も「債券安、ドル高」の展開が強まると予想していますが、そうなると足元では堅調な株価がどこかで再び軟調になる可能性が高いと思われます。ただ、そこはFRBの腕の見せ所で、今後の金融正常化移行への過程で、いかに株価の大幅下落を避けるのかが、課題になります。多くの市場関係者もFRBが政策金利引き上げへ舵を切り直すことは十分認識していますが、それでも「FRBは株価の大幅な調整は避けるはず」と、やや安心感に包まれているところもありそうです。その期待を裏切らないで、金融正常化へソフトランディングすることは簡単ではないと思われますが、まさにそこがFRBの手腕が問われる部分です。世界の中央銀行、とりわけFRBは金融の中心地にいるだけに、その政策は米国内だけではなく、世界中の国の金融政策にも影響を与えます。有事の際の的確な金融政策だけではなく、危機から脱却し通常の金融政策に戻る際の政策変更も、簡単ではないようです。今週は、週後半からボラティリティーの上がる展開が予想されます。
外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算20年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書。