米株価と債券の動きに大きく影響される展開が続くドル円です。先々週後半から先週半ばにかけては、リスクオフが進み、株が大きく売られ、債券が買われたことで、長期金利は節目の1.5%を大きく割り込みました。ドル円もその流れに沿った形でドル売りが進み、19日には109円割れを伺う水準までドル安に振れています。ただその後は市場のセンチメントが一変。長期金利は上昇しましたが、その戻しは限定的でした。株価の方が大きく買われ、先週末には主要3指数が揃って「最高値を更新」しています。今週から本格化するハイテク株などが好決算を出すとの期待が膨らみ、決算発表前に株価を押し上げています。ドル円は約10日ぶりに110円台半ばまで上昇しています。
そもそも株価の大幅下落はFRBによるテーパリングの開始や、米景気のピークアウト論がその根底にありました。しかし、その後行われたパウエル議長の議会証言では、米景気に関して、「債券購入を縮小するほど顕著な回復は見られない」との発言があり、テーパリング期待を後退させています。パウエル議長がこれまで通り、物価上昇に対する慎重な姿勢を崩さなかったことで、市場のやや前のめりだったテーパリング期待が修正された格好です。
今週は27−28日にFOMCがあります。ここでどのような議論が戦わされ、パウエル議長が会見の席でどのような発言を行うのかで今後のドル円の位置が決まってきそうです。議長がこれまで通りテーパリング開始に関して慎重な姿勢を見せるようだと、政策金利の引き上げを急がないと受け止められ、ドル売りが強まる可能性があります。その場合には、ドル円が109円台を割り込むのかどうかが重要になります。同水準は今月19日にドルが大きく売られた際にも抜け切れなかった水準でもあり、テクニカルでも一目均衡表の日足の雲の下限があることが知られています。もっとも、足元では物価上昇が続いているのも事実で、議長がこれを引き続き「一時的」と考えているのかどうかも焦点になります。今回のFOMCでこれまで通りパウエル議長をはじめ執行部が、資産購入の縮小開始に慎重なスタンスを維持するようだと、タカ派寄りの見通しであった、「8月のジャクソンホールでのテーパリング示唆、9月のFOMCで正式に宣言を行い、11月にテーパリングを開始」といったシナリオが修正を余儀なくされることになりそうです。政策運営に責任のあるFRB執行部とすれば、今後の雇用統計をあと2〜3回ほど確認してからでも、政策変更は間に合うと考えるのは自然であって、むしろこの局面では「拙速」だけは避けたいところでしょう。
下値の堅いドル円ですが、それでもまだ上昇の勢いはありません。FRBのスタンスがもう少しはっきりしてくるまでは109−111円でのもみ合いが続くことになりそうです。
外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算20年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書。