テーパリング開始の時期はやや後退した感はあるものの、いずれはその時を迎え、FRBが市場に潤沢な資金供給を行う債券購入という金融政策に終止符が打たれることになります。長期金利は上昇し、株式市場にとっては「逆風」が吹き始めることにもなります。その「逆風」は強風なのか、あるいは微風になるのかはわかりませんが、順調に上昇トレンドを刻み、株式の時代を謳歌してきた投資家にとっても、新たな戦略が求められる時が来ると見ています。そのような中、米金利の上昇に伴い、ドルが主要通貨に対して上昇するシナリオを描くのはそれほど無理なことではありませんが、足元では110円台に入ると押し戻され、上値の重い展開が続いています。
米長期金利が低下傾向にあることがその理由の一つですが、米長期金利の低下は、総体的な金利水準の高さという点もありますが、テーパリングを先取りした投機筋による債券の買戻しが先物市場で起きたことを理由に挙げる専門家もいます。いずれにしても一時は3月下旬には1.7%台まで急騰した米長期金利が1.2%台で推移している状況は想定外だと言えます。加えて、再び新型コロナウイルス感染が拡大したこともドルの上値を抑制している面もあります。米国ではデルタ変異株がフロリダ州を中心に急拡大しています。7月30日には1日で2万1683人の新規感染者が確認され、過去最多を記録しました。またNY州でも5月初旬以来となる1日の新規感染者数が3000人を超えています。オーストラリアでも最大都市であるシドニーではデルタ変異株の感染拡大が止まらず、ロックダウンは今月28日まで継続されるなど、景気への影響も懸念されています。
今週から8月に入り、週末には7月の雇用統計が発表されます。雇用の伸びがコロナパンデミック前に比べると弱いことが、テーパリング開始の足かせになっています。今回7月分は、ワクチン接種の進展に伴い、サービス業を中心に経済活動が再開したことで、非農業部門雇用者も90万人の増加と予想され、6月の85万人から伸びていると見られています。また失業率も6月の「5.9%」から「5.7%」へと、改善が予想されています。ただ労働市場では依然として人手不足は続いており、働く意欲があり、職種さえ選ばなければ仕事にありつける「売り手市場」の状況になっているようです。
手厚い失業手当給付金の上乗せ額の期限が徐々に来ていますが、減少傾向にあった新規失業保険申請件数もややその傾向は高止まりといった状況です。新型コロナウイルスの感染が再び拡大しつつある中、予断を持たずに雇用統計の結果を持ちたいと思います。
仮に雇用統計が上振れした際には、ドル円の110円台半ば、ユーロドルの1.17台半ばを超えてドルが上昇できるかどうかが正念場です。
外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算20年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書。