今朝の「アナリスト・レポート」でも触れましたが、ワクチン接種が進んだ米国でもデルタ変異株の感染拡大が続いており、これが米消費者の景気の先行きに影を落とし、8月のミシガン大学消費者マインドが急激に低下しました。消費者マインドの低下はFRBの金融正常化を早めることにはならないとの見方から、米長期金利の低下がドル円を押し下げています。週明けの東京市場では109円32銭前後までドルが売られ、今夜、NY株が大きく売られるようだと、ドル円は再び109円前後をテストする可能性があると予想しています。
その想いを強めるのが今朝の報道にあった「タリバンによる首都カブールにある大統領府掌握」です。米軍がアフガンから撤退したことで、政府軍を上回る勢力を持つタリバンが「アフガニスタン・イスラム首長国」の樹立を企てており、すでに現政府のカニ大統領はアフガンを出国したとの報道もあります。このような状況下でも米国はアフガンからの撤退を変えてはおらず、バイデン大統領は「アフガン駐留が始まって以来、私は4人目の大統領だが、これを5人目に引き継ぐつもりはない」と語っています。アフガンの混乱は中東の地政学的リスクを高め、週明けの日経平均株価も500円を超える大幅な下げに見舞われています。このまま株価の大幅な下げを海外に引き継ぐようだと、好調なNY株式市場でも利益確定の売りが先行して、大幅な下落につながる恐れもあります。また、タリバンの行動次第では原油価格にも影響が出ることも予想されます。いずれにしても現時点では、円が買われ易い状況になっていることは疑いありません。
ドル円は好材料が出ても、110円台半ばから後半が抜けない状況がここ1カ月程続いています。先週はFOMCメンバーの多くが講演でテーパリングを開始するタイミングについて、前向きな発言を行いました。米長期金利もそれに伴って1.35%近辺まで上昇しましたが、上値の重さは依然続いています。今回、「消費者マインドの急低下」と、「タリバンによる首都制圧」といった悪材料が出て来ました。悪材料にどこまで反応するのか注目されます。今週は、来週行われるジャクソンホールでの経済シンポジュウムを控えて小動きを予想していましたが、上述のようにNY市場での金利と、株価の動き次第ではそうはいかないかもしれません。注目材料としては、本日のNY連銀製造業景況感指数と、17日(火)の小売売上高です。特にNY連銀製造業景況感指数は先月、予想を大きく上回る「43.0」と、記録的な高水準でした。今回の8月分は予想が「28.5」と、先月の反動から大幅な低下が予想されています。事前予想が低い分、下振れの可能性が少ないと見る向きもあります。FRBによるテーパリングが手の届くところまで近づいていながらも、FRBは急がないとの観測がNY株の支えになっていますが、今週も含めて、今後波乱が起こるとすれば、やはりNY株の大幅な下げがきっかけになると見ています。来週のジャクソンホールに次いで、8月の雇用統計、FOMCと今後は重要なイベントが相次ぎます。低水準で推移しているボラティリティーもそろそろ動き始めるかもしれません。
外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算20年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書。