米長期金利が低下傾向を見せていることからドル円の上値はやや重く、米株価の下落もドルにとっては重荷になりつつあります。一方ユーロドルは先週、重要なサポートであった1.17前後を割り込んだことで、じりじりと下値を切り下げる展開になっています。米国でもコロナ感染は再拡大しているものの、ユーロ圏でも拡大傾向が顕著で終息の気配は見えません。ただユーロドルの下落は「ドル高」を意味していることから、ドル円の下落をある程度抑制する力が働くものと思われ、大幅な「ドル安円高」は見込みにくいといった想定はできそうです。
今週の注目は何と言っても27日(金)のジャクソンホールです。対面での講演はなくなりましたが、オンライン形式で行われるパウエル議長の講演内容が注目されることには変わりがありません。ポイントは言うまでもなく、前回7月のFOMCでも議論が深まった「テーパリング開始」のタイミングです。7月の雇用統計の結果が良好だったこともあり、9月のFOMCでテーパリングの開始を示唆するといった見立てがかなり支持を集めました。しかしその後、ミシガン大学消費者マインドや、NY連銀製造業景況感指数、さらには小売売上高といった景気に直接むすびつく経済指標が相次いで予想を下回ったことで、「9月説」は下火になった経緯があります。ところが、先週公表された7月のFOMC議事録では「多くのメンバーがテーパリングを開始するのが適切」とのスタンスを示し、再び「9月説」が注目され始めています。それでも足元では11月のFOMCでテーパリング開始を宣言し、2022年から実際に始めるといった読みが主流で、筆者もこちらを支持しています。
デルタ株の感染拡大が続いている米国では、死者数が3月以来の高水準に達しており、新規感染者数もピークの7割程度まで増加しているようです。そのため、一旦解除したマスク着用も場所によっては再び義務化されています。今後さらに拡大するようだと、週末のパウエル議長の講演内容にも影響を与える可能性があり、ひいてはテーパリング開始の時期にも影響してくるかしれません。慎重なパウエル議長がFOMC内で盛り上がる早期テーパリング開始論をどこまで受け入れ、逆にややピークアウト傾向を見せている経済指標のリスクとコロナ感染の拡大にどこまで配慮するのかが注目されます。まもなく8月も終わりますが、9月に入ると政治的リスクも台頭して来る可能性があります。昨日の横浜市長選で敗北を喫した与党自民党は10月に任期の来る衆院解散を、現菅政権で迎えるのか、新しい顔で選挙を戦うのか、選択を迫られます。現時点は9月末に任期の来る前に自民党総裁選を行い、衆院選を有利に進めたいところですが、とうの菅総理は同自民党総裁選出馬については「変わらない」と話しています。このままでは衆院選に勝てないと危機感を強める与党自民党内で、政治的リスクが高まることも予想され、為替にも影響が出る可能性もあります。一気にテーパリング開始時期が先にずれ込む可能性はないとは思いますが、パウエル議長の講演で「あえて急がない」といったニュアンスが増幅されると109円割れ、反対に9月示唆への言及があれば、111円台に乗せるかどうかが焦点になります。
外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算20年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書。