先週のドル円は順調に上昇し、30日(木)には欧州で112円08銭まで買われましたが、米国株の大幅な下げが続き、週末には一時1.56%台まで上昇した米長期金利が1.46%台まで低下したこともあり、110円台後半まで押し戻されて越週しました。またNY発の株安の影響から日経平均株価も2万9000円を割り込み、一時2万8800円台にまで下げ、市場全体がやや「リスク回避の円買い」に傾斜してきたことも、円が買われ易い状況になった背景と見られます。ただ、今回の下げは想定内です。7月から9月下旬まで、2カ月半も続いた109円〜111円のレンジ相場が上抜けし、急ピッチで112円台まで駆け上がったドル円の動きは、やはり早すぎたとの印象は拭えません。11月のFOMCではテーパリングのスケジュールが正式に決定され、早ければ年内にもテーパリングが開始されるとしても、利上げは2023年頃になる見込みです。米長期金利が今年3月に記録した1.77%台まで上昇するような状況になるなら話は別ですが、ドル円の112円〜115円への方向にジャンプするには米金利の一段の上昇なくしては簡単ではありません。方向的にはドル高傾向が続くとみていますが、まだ時間がかかり、その上昇も緩やかなものになると予想しています。
ただ、市場を取り巻く環境はこれまでよりも複雑化しています。ある程度のドル高は続くとみますが、株と債券同時に買われる、いわゆる「ゴルディロックス」(適温相場)は続かないと見られます。米金利の上昇は株式市場には逆風でしたが、それを上回る資金が世界中から米株式市場に流れ込み、逆風を押しのける形で株価を支える構図が続いていました。この流れがいつまで続くのかは分かりませんが、米国では連邦政府債務上限問題が噴出し、つなぎ法案は可決したものの、根本的な問題解決には至っていません。加えてバイデン政権のインフラ投資法案は政権与党内でもその規模や支出先を巡って意見が対立しており、成立が遅れています。また、中国発のリスクは「恒大集団」が保証を行っている企業のドル建て債券の期限が来ており、デフォルトリスクが高まっていることもセンチメントを悪くしており、この影響で週開けの日経日平均株価は一時400円程下げる場面もありました。
ドル円は米金利の動きに大きく左右させられます。その米金利は米株式市場とは密接な関係があります。1年で最も下落しやすい9月相場が終わり、1年で最もボラティリティが上がり易い10月相場(日経新聞、ウォール街ラウンドアップ)が始まりました。今週末には雇用統計も控えており、2カ月連続で予想を大きく下回った同指標が注目されます。現時点での予想は47万人の増加が見込まれ、前回の「23万5千人」から改善していると見られています。現在のテーパリングを巡る観測を変えることなく、11月のFOMCを迎えることが出来るのか、株価と金利の動き、さらに雇用統計の結果などが大きな影響を及ぼすことになります。
外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算20年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書。