9月末に112円台に乗せたドル円でしたが、その後中国の大手不動産開発会社「中国恒大集団」の資金繰り問題が表面化し、リスク回避の円買いの動きから一時は110円台後半まで押し戻されましたが、先週末のNY市場では再び112円台を回復して来ました。週明け月曜日の東京市場では午後に一段とドル高が進み、112円72銭前後まで上昇しています。これで2019年4月に記録した112円40銭の直近高値を抜き、2018年12月の水準までドル高が進みました。2年10カ月ぶりのドル高水準ということになります。東京時間でのドル高要因の一つには「岸田ショック」からの回復が引き金になったと見られます。岸田首相は自民党総裁選で勝利した際に、「成長と分配」を実現するなかで,中間所得層の増大を挙げ、その財源として「金融所得課税の見直しを行う必要がある」と訴えていました。高所得者による株式等の配当にかかわる税率を現行の「20%」から「25%」に引き上げるといった、具体的な税率まで市場では飛び交っている状況でした。このため、日本株には大きな下落圧力がかかり、先週半ばには日経平均株価が2万8500円前後まで下落する場面がありました。
岸田首相は日曜日10日のテレビ番組で、「当面は触ることは考えていない。まずやるべきことをやってからでないとおかしなことになってしまう」と述べ、「誤解が広がっている」とした上で、「しっかり解消しないと関係者に余計な不安を与えてしまう」と述べたことで、本日の日経平均株価は先週末から450円を超える上昇を見せています。株高はリスク選好の流れにつながり、低金利の円は売られ易い展開となります。またこのような状況になると、ユーロ円などのクロス円でも軒並み「円安」が進行する傾向があります。ユーロ円は130円台を回復し、豪ドル円は約3カ月ぶりに82円台半ばまで上昇しています。米国では早ければ11月のFOMCでテーパリング開始の決定がなされる可能性もあり、金利が上昇しています。すでに韓国では8月に利上げを決め、ノルウェーでも9月に利上げを行っています。先週にはニュージーランドも政策金利を引き上げ、これに米国や英国、あるいはユーロ圏も方向的には同じような政策変更圧力を受けていることは明らかです。一方わが国では、先日の日銀総裁の会見でも述べられていたように、「必要とあれば、さらなる金融緩和」も辞さないスタンスが維持され、異次元緩和の出口は依然として見えてきません。つまり、金利差から円が売られ易い傾向はまだ当面続くと考えられます。
ドル円は今年の最高値を更新しました。こうなると、意識されるのは2018年10月に記録した114円55銭というドルの高値です。2018年10月から同年12月にかけてもみ合った、113円台半ばから114円台半ばが次のドル円のレジスタンス・ゾーンになると考えます。このところのドルの上昇はピッチが速く、当然調整局面があろうかと思いますが、113円台に乗せるようだと、思った以上に上昇に弾みが付く可能性を意識して置いた方がいいかもしれません。米国では今週から大手銀行を皮切りに決算発表が始まります。好決算が発表され日米で株高が続くようだと、円がさらに売られる可能性があるからです。
外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算20年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書。