先週末のNY市場で再び114円台を回復したドル円は、昨日の衆院選で与党自民党が単独で安定政権につながる過半数を獲得したことで、予想通り本日の日経平均株価は急騰しています。前場では一時700円を超える上昇をみせ、2万9500円台を回復しています。それにともなってドル円の方も、114円25銭前後まで「円売り」が進み、再び非常に重要なレジスタンス・ゾーンである114円台半ばから上方をうかがう動きを見せています。このゾーンはそう簡単には抜けるものではありませんが、今週は重要イベントが目白押しとなっていることから、場合によっては一気に抜け切ることもないとは言えません。もちろんこの水準では実需筋や利益確定のドル売りが相当並ぶことから、結果次第ということにはなります。
先ずは明日から始まる米FOMCでしょう。パウエル議長は先月22日のオンライン形式の講演で、「われわれは資産購入のテーパリング開始へと順調に向かっており、経済がおおむね想定通り展開すれば、来年半ばまでに完了する見通しだ」だと発言しており、テーパリング開始を決定することはほぼ間違いないものと思われます。ただ同時に、この決定はほぼ市場に織り込まれており、この決定を持ってドルが買われる可能性は低いと予想しています。また議長は、「私はテーパリングを始める時が来たと考えているが、利上げの時期とは考えていない」と、利上げ観測の先走りにはクギをさしています。その根拠となるのが、足元の物価上昇は「一過性のもの」との考えが根底にあるからです。
これについては、筆者は懐疑的です。先週末に発表された10月のPCEデフレータは「4.4%」の上昇を見せており、物価上昇は続いています。FRBが最も参考にするとされる同指数は手元のデータで遡れば、1983年以来の高水準になります。人手不足により賃金の高騰、原油価格の高騰、さらにはサプライチェーンの混乱にともなう物流の停滞など、様々な理由が重なった結果だとは思いますが、FRB幹部が考えている以上に元の状況に戻るには時間がかかりそうです。ウォラーFRB理事は、「2022年に入ってもインフレ率が2%をかなり上回って、私の上振れリスクが現実化した場合は、現在の予想よりも早い利上げを支持するだろう」と述べるなど、FRB内部でも足元の物価上昇が想定よりも長く続くと言った見方が浸透しつつあります。米ゴールドマンは2023年と予想していた利上げを2022年7月に前倒ししています。この様な状況の中、3日のFOMC後のパウエル議長の会見で、「一過性」といった言葉を削除するかどうかに注目しています。テーパリング開始の決定で「材料出尽くし」からドルが売られるかもしれませんが、FRBが利上げ観測を前倒しするようだと、想定以上にドルか買われる可能性にも注意したいところです。
また今週末には10月の雇用統計も発表されます。非農業部門雇用者数はすでに「45万人」の増加が見込まれており、ここ2カ月続いていた予想を大きく下回る結果にも、今回は終止符が打たれるかもしれません。毎週発表される「週間失業保険申請件数」でも減少傾向が続いており、直近の同指数は「28.1万件」と、新型コロナウイルスのパンデミック以降最少を記録しています。今回の数字が予想を超えるようだと、ドル買いがさらに強まる可能性もあります。
外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算20年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書。