先週のドル円は、これまでのレンジの下限であった113円台前半を割り込み、112円78銭までドル安が進みました。FOMCで市場予想通りテーパリングの開始を決めたものの、利上げに関しては「その時期ではない」と、パウエル議長が発言するなど、やや「ハト派的」であったことからドルを売る動きが活発化したものでした。個人的には、レンジの下限を下抜けしたことで、もう一段の下げを予想していましたが、消費者物価指数の大幅な上振れをきっかけに一気に114円台を回復してきました。
結局元の鞘に戻ったことになりますが、依然として114円台半ばから115円にかけてのゾーンが重く、今後もドルは底堅く推移するとはみていますが、一方で上記レンジを上抜けするにはそれ相応の支援材料が必要なことも間違いありません。最も有力な支援材料は米長期金利の大幅上昇です。米長期金利は10月に1.7%台まで上昇した後、1.42%台まで低下し、現在は1.56%前後で推移していますが、しばらくは1.5%台で推移するのではないかとみています。ドル円が上記レンジをテストするには、同金利が再度1.7%台まで上昇するか、あるいは低金利の円が大きく売られる程の「リスクオン」が急激に進むかといった展開が予想されますが、それでもそういった状況が直ぐに発生するセンチメントでもありません。また取引量の多いユーロドルでは、大きく「ドル高・ユーロ安」が進んでおり、先週末のNY市場では一時1.1433までユーロが売られる局面もありました。対ユーロでドル高が進めば、ドル円でもドル高方向に動く可能性が高いものの、今回はそれほど円売りが進まず、ユーロ圏自体の個別な理由からユーロ売りが加速した模様です。これは新型コロナウイルスの感染が欧州で再び拡大していることと無関係ではないと考えます。ドイツでは、13日の新規感染者数が4万5000人を超え、14日にも3万3500人ほどの感染者が出ています。パンデミック後、過去最多水準の新規感染者数が続いていることになります。またオーストリアでも新規感染者が急増しており、政府は感染抑制のため15日からワクチン未接種の人を対象に外出制限などを課す「ロックダウン措置」を、少なくとも10日間実施することを発表しています。ユーロ円など、クロス円全般が軟調に推移しているのは、この影響かと思われます。
今週は16日(火)に米小売売上高が発表されます。インフレ率の加速で物価上昇が続き、さらにガソリン価格の上昇もあいまって、個人消費には逆風が吹いています。それでも10月の小売売上高は「1.3%」増と予想されており、前月の「0.7%」から大きく伸びていると予想されています。米国ではすでにクリスマス商戦が始まっていますが、大手デパートでは商品不足に陥っており、このままでは一年で最も商品が売れる「かき入れ時」に商品が揃わない可能性も指摘されています。
今週は上記指標以外に相場へインパクトを与えるイベントは少なく、FOMCメンバーの講演が多く予定されていることから、そちらの方の発言が相場を動かすかもしれません。また今週末には、岸田政権の景気対策の具体案が発表される予定です。日経新聞はその規模が40兆円にも上る可能性があることを伝えています。これまでは20−30兆円とみられていただけに、それを大きく上回る規模の景気対策案であれば、株式市場が好感し大幅高となることで、円売りが進むことも予想されますが、どうでしょうか。
外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算20年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書。