ドルロングで攻めていた投資家にとって、先週金曜日に飛び込んできたニュースは「晴天の霹靂」だったことでしょう。その2日前には115円52銭までドルが買われ、4年10カ月ぶりのドル高を記録した後の急落でした。また、FRBは今月からテーパリングを開始し、早ければ来年春先には終了する可能性も出て来ていました。そのため利上げ観測も徐々に前倒しとなり、「来年2回の利上げ」を見込むエコノミストも徐々に増えて来ている状況でした。米ゴールドマンは第1回目の利上げを来年6月と予想し、さらに9月、12月にも利上げがあり、都合3回の利上げがあると公式に発表しています。
そんな中、「南アフリカなどで新たな新型コロナウイルスの変異株が確認された」との報道から世界の金融市場が大きく揺れ動きました。急速に強まったリスク回避の流れから、比較的安全とされる「円」に買いが集まり、さらに上述のように、ドル高を見込んでいた投資家のポジションの偏りも加わり、ドル円はNYで一気に113円目前のレベルまで急落しました。安全資産の債券が大きく買われ金利が低下し、リスク資産の株式が大きく売られています。「株式市場を襲った、感謝祭明けの3つのショック」と題してウォール街ラウンドアップ(日経新聞)では、1.南アフリカの新型コロナウイルスの新たな変異型、2.大手金融機関の2022年の3回の利上げ予想、そして、3.米中摩擦の激化を挙げていました。ダウはこの日短縮取引の中、一時1000ドルを超える下げに見舞われています。明けて月曜日の東京時間では、日経平均株価が400円を超える下げで始まりましたが、先週末の下げが大きかったせいか、前場では下げ渋り、前日比プラスに浮上する場面もあり、やや落ち着きを取り戻した格好になっています。ドル円も113円台後半で落ち着いた動きとなっており、現時点では大きな混乱にはつながっていません。ただ、まだわかりません。日本では多くの専門家が「第6波は必ず来る」と口を揃えて警鐘を鳴らしています。もしその通りだとすれば、今回の「オミクロン株」がその中心になるように思えます。今夜のNYでどのような動きになるのか予断を許さない状況ですが、南アフリカの専門家が、「ここ数カ月に自身が治療した他の新型コロナ患者とは異なっており、軽症だ」と述べていることがひとまず市場を落ち着かせているようです。
個人的にはFRBの金融正常化への道筋は不変で、現時点で米国の消費者物価指数が急速に低下する要素はないと考えています。先週末のNY原油先物市場で原油価格が前日比13%も値下がりしたことには注意が必要ですが、これも投機的なポジションの調整の一環と見ています。「OPECプラス」が増産に踏み切るような動きにもつながっていません。今回の変異株に関してはまだ情報量が少ないのと、症例も限定的であるため的確な判断もできないようですが、ファイザーやモデルナでは既存のワクチンの有効性を確認する作業や、有効性が確認できない場合の新しいワクチン開発に素早い対応を開始したことも好感されています。
今週は週末の雇用統計を始め、重要イベントが数多くあります。「変異株オミクロン」の感染リスクを含め、本日パウエル議長の見解が披露される可能性があります。また30日にはパウエル議長とイエレン財務長官が議会で証言を行うことになっており、ここでは足元の物価上昇に対する認識も改めて問われることになろうかと思います。ドル円のボラティリティーも上昇してきており、1日の値幅が想定よりも大きくなることも予想されます。今年最後の1カ月を「有終の美」で飾れるよう慎重にトレードを行ってください。
外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算20年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書。