主要中銀の政策決定会合が集中した先週、サプライズはイングランド銀行の利上げでした。政策金利をそれまでの「0.1%」から「0.25%」へと、「0.15%」引き上げました。イングランド銀行はいずれ近いうちに利上げを行うと見られていましたが、オミクロン株の感染が急速に広がっていることもあり、今回は「利上げ見送り」との観測がコンセンサスでした。オミクロン株の感染リスクよりもインフレ抑制を優先した形でした。一方、テーパリングの加速を示唆していたFRBについても同様でした。テーパリングの規模をこれまでの2倍の月300億ドル(約3兆4000億円)を減額することで、来年2月にも資産購入プログラムが終了する見込みで、FRBは2022年には3回の利上げを行う可能性が「ドットプロット」からも窺えるほど、タカ派姿勢を強めました。ここでもオミクロン株のリスクよりもインフレの抑制に全力を注ぐ姿勢を見せたことになります。
確かに、直近11月の米CPIは39年ぶりとなる「6.8%」でした。変動幅の大きい食品とエネルギーを除いたコア指数でも「4.9%」と、こちらも39年ぶりの高水準です。いずれもFRBの目標値である「2.0%を若干上回る水準」を大きく超えています。パウエル議長も、最早「一過性」という言葉を使用できないくらいインフレの高進が続いています。政策金利の引き上げは株式市場には「逆風」として働き、急速な利上げは株価の急落を引き起こし、ひいては景気へのブレイキとなることが考えられます。そのためFRBとしては拙速な利上げは出来るだけ避けたいところですが、一方で利上げのタイミングを誤ると反対にその後急速な利上げを行わざるを得ない状況に追い込まれることも考えられ、難しい判断です。先週末のNY市場でダウは532ドルと大幅な下げを演じましたが、これはオミクロン株への警戒感に加え、利上げに対するアレルギー反応といった部分もあったとみられます。その影響もあり、週明け月曜日の東京株式市場では日経平均株価が、午後1時半現在620円安と大幅続落となっています。
重要なイベントも終わり、今週は間もなくクリスマス休暇に入ります。そのため、為替市場は動きが限定されると見られますが、上述のように株式市場では依然として高いボラティリティーが続いているため、例年通り小動きとなるかどうかは予断を許さない状況です。むしろ何か突発的なことが発生した場合には、参加者が少なく、流動性が低下していることから値が飛ぶことも考えられます。そんな中、唯一注目する材料と言えば、23日(木)に発表されるPCEデフレーターです。同指標はFRBが金融政策の指標としてより注目していると言われていますが、11月の同指標の予想は「5.7%」と、先月の「5.0%」よりも大きく伸びていると見られています。PECコア・デフレーターにしても「4.5%」と、こちらも先月よりも大幅な上昇が見込まれています。この歴史的な物価上昇は、新型コロナウイルスからの景気回復に伴い、需要が急速に拡大しましたが、サプライチェーンの混乱で供給制約が続いたことが主因でした。輸入大国の米国で、コンテナ船の約4割が通過すると見られているカリフォルニア州ロスアンゼルスのロングビーチ港では、11月中旬には接岸できずに沖合で停泊中の船がピークで111隻ありましたが、12月に入ると55隻に半減しています。(リフィニティブのデータから日経新聞が分析)物流の要であるトラックの手配が徐々に回復してきたことを示していますが、まだ高水準のようです。トラックのドライバー不足を解消するために賃金を引き上げることは避けられず、この先物価上昇が直ぐに鎮静化するとも思えません。
ドル円は底堅い動きを見せながらも114円台で定着するにはまだ支援材料不足の感があります。欧州でオミクロン株の感染拡大が続いていることもユーロ売り、円買いを促している側面もあります。今週はやや上値の重い展開を予想しています。下値のメドは113円前後と112円台半ばとみています。
外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算20年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書。