年明け5日には116円34銭まで買われたドル円は、昨日のNYでは115円05銭まで売られました。先週末の雇用統計発表後に1.8%台まで上昇し、2年ぶりの高水準を記録した米長期金利でしたが、ドル円はその金利上昇にも反応せず売られています。そもそも115円から116円に乗せたスピードが速すぎ、わずか3営業日でした。それまでの113円、114円台では、大台を替えるのに10営業日ほどかかり、極めてゆっくりとドルが買われていましたが、今回の大台替えはやや「スピード違反」の感があり、利益確定の場を提供した面もありました。また年初のドル高局面では金利が上昇したものの、株も買われ、リスクオンが強まった地合いが支えになっていましたが、今回は、金利上昇はあったものの株価が大きく下げ、「リスクオフ」が進んだことで、より株価の下落に引き寄せられた結果かと思います。
FRBは早ければ3月の会合から利上げを開始する可能性があり、今年は3回の利上げが見込まれています。市場では徐々に4回の利上げ観測が常態化しつつあり、ついには「5回利上げ」の声も出たようです。「5回利上げ」は別としても、FOMCメンバーの間でも3月の利上げが妥当だとする意見や、利上げ開始後直ちに保有資産の縮小に着手することが望ましいといった「タカ派的」なコメントも増えてきました。想定以上の早い利上げ開始は株式市場の混乱を招き、遅すぎる利上げの判断は、その後の利上げスピードをさらに急激なものにすることとなり、株式市場の調整を長期化するリスクもあり、難しい政策判断に直面していると言えます。その意味で今週は重要な週と言えます。
パウエル議長は本日、FRB議長の再任に関する議会公聴会に出席します。事前に公表された「証言テキスト」によると、パウエル議長は、「経済と力強い労働市場を支えるとともに、インフレ高進が定着するのを防ぐため、われわれは手段を活用する。パンデミック後の経済は幾つかの点で異なる可能性を目にし始めるかもしれない。当局目標の追及に当たってはこうした相違を考慮する必要があるだろう」としています。この他テキストでは、金融当局による過去4年間の金融監督・監視を称賛。即時決済への一般のアクセス改善の取り組みの他、気候変動やサイバー攻撃など時間の経過と共に変化する脅威に重点を置き監視する動きの強化、金融安定を巡る分析と監視の拡大などを列挙しています。(ブルームバーグ)議員からは、インフレ鎮静化の見通しや、利上げ回数に関する質問も挙がるものと思われ、パウエル議長がどのように答えるかによって、今夜の為替や株式市場の反応が決まってくるとみています。また翌日12日(水)には12月の消費者物価指数が発表されます。11月分は前年比「6.8%」の伸びで、実に39年ぶりの高水準だっただけに、今回の注目度も極めて高く、事前予想では前回を上回る「7.1%」と予想されています。この予想を上回る数字が出て来るようだと、利上げ回数のさらなる積み上げが意識され、再び株価が下げ、ドル円も下値を試す展開が予想されますが、金利が上昇することで、ドルの下落には限界があろうかと思います。
FOMC議事録の公開を契機に米長期金利は大幅な上昇をみせていますが、これもこれまで述べてきたように、金利上昇が常に株式市場にとって「逆風」であるわけではありません。重要なのは、そのスピードと利上げ回数にあると言えます。これについて、世界最大の運用会社である「ブラックロック」のストラテジストは、「金融当局が引き締め的なレベルへの利上げで ブレーキを踏むのではなく、緊急刺激策から離れるため、アクセルから足を離すという基本シナリオを維持している」と絶妙な言い方で、FRBの金融正常化へのステップを説明しています。今週は115円前後が維持され、再び116円台をテストする基礎固めになるのか。あるいはこの先ドルが売られ、116円台が重くなり、115円を挟む展開になるのかを見極めることになりそうです。
外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算20年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書。