ウクライナ情勢や株価の乱高下で上値の重かったドル円も、先週末の1月の雇用統計の結果を受け、115円台半ばまで反発する場面がありました。米長期金利の上昇が支えとなり、日米金利差に着目したドル買いが優勢となりましたが、さらに今後もFRBが積極的に利上げに取り組むといった観測も支援材料になっています。実際、3月のFOMC会合での利上げはほぼ確実ですが、それ以降も4回から5回の利上げの公算が高く、ブルームバーグのコメンテーターでもあるサマーズ元財務長官などは、毎回の会合で利上げが実施されるといった準備もしておく必要があると警告し、さらに利上げ幅も0.5%の可能性もあるとしています。サマーズ氏は、その根拠に「FRBの政策が後手に回っている」ことを挙げていました。
確かに1月の雇用統計では「米労働市場は確実に拡大している」ことが窺える内容でした。この結果を見る限り、FRBが利上げを急ぐといった見方も整合されそうです。ただ、市場は強気に振れた時も弱気に振れた時も行き過ぎることが頻繁に発生します。それを筆者は「市場も間違う」と表現してきましたが、昨今の米株式市場の動きなどは、まさにこの典型だったと言えましょう。ドル円は先週末に1.93%まで上昇した米長期金利に引っ張られ上昇したものの、不透明な株式市場の先行きやウクライナ情勢などが円の大幅安を抑制した形となり、115円台半ばで上昇が一旦抑えられています。ウクライナ情勢については米国防総省の高官は、「ロシアはいつウクライナに侵攻してもおかしくない状況だ」と語っているように、緊張が続いています。北京冬季オリンピック開幕に合せて、中ロトップ会談も実現しており、何が話し合われたのかは不明ですが、少なくともオリンピック開幕中のロシアによるウクライナ侵攻の可能性は低いとみるのは、素人考えでしょうか。いずれにしても、米国もウクライナ周辺国のポーランドなどへの派兵を終えており、今後も大きなリスクは残っていると考えられます。
今週は10日(木)に1月の消費者物価指数が発表されます。12月は「7.0%」と、39年ぶりの高水準でした。1月分の予想はすでに「7.3%」と、さらに一段と上昇していると見られています。FRBの政策判断にはPCEデフレーターの方がより大きな影響を与えますが、消費者物価指数も状況が状況だけに、非常に重要な意味合いを持つと思われます。予想を上回るようだと、FRBによる早急な利上げ観測がさらに強まり、米長期金利が一段と上昇することにつながる可能性があります。米金利高はドル上昇につながりやすいと思われますが、株式市場、特にナスダック市場がどのような反応を示すのかもポイントになります。ナスダック指数が大きく売られるようだと、再び「リスク回避の円買い」が起き、米金利の上昇=ドル高といった単純な動きにはならないかもしれないからです。1月4日に記録した今年のドルの最高値である116円35銭までは1円程度のレベルまでドルが買われて来ましたが、「近いようで遠い116円台」といった印象です。
米企業決算発表もピークを過ぎ、FOMCも3月までないということで、やや材料不足かとは思いますが、株式市場を中心としたボラティリティの高さは続くと見られます。一時は「30」を大きく超えて上昇した「VIX指数」も、落ち着きを取り戻し低下して来たとは言え、まだ危険水域とされる「20」を上回り、週開け月曜日も「23.22」近辺で推移しています。材料不足とみられる2月ですが、予断を許さない展開は続きます。
外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算20年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書。