為替も株も荒っぽい動きが加速しています。「ロシアによるウクライナ侵攻が迫っている」との観測に、米国もウクライナ滞在の米国人に対して「48時間以内の撤退」を促すなど、緊張がさらに高まっています。米国も各種チャネルを駆使してロシアに対して侵攻しないよう圧力をかけていますが、今の所効果はなく、米ロの非難合戦に終始しています。さらに市場のボラティリティを高めているのが、米国のインフレの伸びです。1月のCPIは「7.5%」と予想を上回り、CPIコアも「6.0%」と、物価上昇が各分野にまで広がっていることが示されています。
3月のFOMCでの利上げは、ほぼ間違いないと見られますが、上げ幅についても「0.25%」から「0.5%」引き上げへと急速に傾いています。1月の会合後の記者会見でパウエル議長は「次回会合で利上げを行うことは適切だ」と述べ、これまでのハト派的姿勢からタカ派に転じています。また、「0.5%の引き上げの可能性は?」との質問には、「まだ何も決まっていない」と答えるに留め、否定をしなかったことが、余計に市場の観測を高める結果につながった経緯もありました。通常は「0.25%」ずつ引き上げるものを、一気に「0.5%」引き上げることは、かなり異例なことになりますが、もし「0.5%引き上げ」を決定したならば、それは「パウエルFRBが追い詰められている」ことの証左になろうかと思います。今週16日(水)には1月会合の議事録が公開されます。3月会合での利上げに向け、どのような議論や意見があったのか、市場は高い関心を持って注目しています。
ただ一方で先週末のミシガン大学消費者マインドのように、米経済指標にも徐々に変化が表れているのも事実です。労働市場では相変わらず人手不足が続いており、労働市場を取り巻く環境に大きな変化は見られませんが、CPIの急上昇で、家計の生活費は確実に上昇しています。今後小売売上高など、個人消費への影響は避けられないと思われます。その意味で、急激な利上げは景気の腰折れにつながる可能性があり、パウエル議長としてもインフレ阻止を最優先すれば、株安や景気の減速につながり、緩やかな利上げ政策ではさらにインフレを高進させてしまい、のちのち「高い代償」を払わされる可能性があるなど、非常に難しい判断が求められます。市場は、1月のCPIが予想を上振れしたことで再び大幅利上げに対するバイアスを強めた格好になっているとみています。3月に「0.5%の引き上げ」、「年内に6回の利上げ」、というのは、やはりハードルが高すぎると個人的には思います。ここは、今朝の「アナリストレポート」でも触れましたが、サンフランシスコ連銀のデーリー総裁が述べたようなアプローチが、最も可能性が高い方法だと思っています。
ECBもFRBと同様に岐路に立たされています。ドイツ連銀のナーゲル総裁のようなタカ派もいる一方、ECBの政策メンバーであるフィンランド中銀のレーン理事のように、インフレに過剰反応すれば経済成長を阻害しかねないと、利上げには慎重な姿勢を見せるメンバーもいます。ECBのラガルド総裁は独紙とのインタビューで、市場金利が上昇していることに触れ、「われわれが慌てて動けば、景気回復はかなり弱まってしまう」との見方を示し、慎重に行動する必要性を訴えています。また、「米国経済は過熱しているが、われわれはそこから程遠い」と語り、政策変更には時間的余裕があるとも語っていました。ラガルド氏は今夜、欧州議会で意見を述べると思われ、こちらも注目されます。
今週も市場は荒れることが予想されます。基本はドルが下がったところを買う方が「分」があるとは思いますが、慎重な対応が望まれます。
外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算20年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書。