ウクライナの首都キエフ制圧を目指し攻撃を続けているロシアに対して、現時点では停戦に向けた対話の機会を模索しつつも、徹底抗戦を行っているウクライナ。このままでは行き着く所まで行かないと終わりの見えない状況になっています。個人的には何らかの形で「中国が介在」することが、停戦への一つの道であると考えてきましたが、その中国を巡る動きも活発になってきました。
中国の習近平国家主席は先週、フランスのマクロン大統領、ドイツのショルツ首相と共にビデオ会議形式でウクライナでの戦争について話し合いを行っています。現時点では停戦に向けて中国が積極的に仲介の役割を果たそうという気配はありませんが、中国はこのまま様子見姿勢を続け、プーチン氏を挑発した米国とNATOを非難し続ければ、対欧州関係へのダメージが長引く可能性があります。そうなれば、「民主主義VS強権国家という構図が定着し、中国とロシアは共通の脅威と見なされることになる」(ブルームバーグ)リスクがあります。仮に今回の戦争で中国が仲介に成功すれば、西側諸国の中国に対する評価も上がり、経済的にもメリットがあると思われますが、西側の専門家は「中国が仲介に乗り出すことはない」と述べ、これがコンセンサスになっているようです。一方ブルームバーグ通信によると、ロシアは、ウクライナ軍事侵攻を支援してもらうため中国に軍事装備品の提供を要請したと、米当局の話として報じています。
先週末のNYで117円35銭まで上昇したドル円は、今日の東京でも一段と円安が進んでいます。午後1時半時点では117円88銭までドルが買われ、118円も視野に入ってきました。先週末の東京から比べると1円50銭以上もドル高が進んでいます。昨年12月初旬から113円台半ば〜116円台半ばのレンジが長い間続いていましたが、先週に入り116円台に乗せるとその後一気に118円を目指す展開へとドル高傾向を示して来ました。米長期金利が再び2%の大台に迫ってきたことが最大の支援材料になっていますが、同時にロシアのウクライナ攻撃が始まっても「思ったほどリスク回避の円買いが進まなかった」ことも、ドルの買い方に安心感を与えています。
WTI原油価格は一時130ドル台まで急騰し、その後上げ幅を縮小してはいますが、現時点でも106ドル台で高止まりしています。米2月の消費者物価指数は40年ぶりとなる「7.9%」と、1月からさらに上昇していました。原油価格だけではなく、あらゆる資源価格や穀物の値段も上昇しており、今後米国だけではなく世界の国にとって、物価上昇圧力は一段と増しています。そのため、今週16日のFOMCでは「0.25%」のFF金利誘導目標の引き上げに留まると思いますが、その後の急激な利上げの可能性は否定できない状況です。3月3日に行われた議会証言でもパウエル議長は、「ウクライナへの侵攻が始まる前に想定した計画に沿って今後も政策を進めていくのが適切になると考えている。つまり、3月会合で利上げし、今年を通じてその姿勢を続けるということだ」と述べ、大幅な利上げの可能性を排除してはいませんでした。足元の市場の利上げ観測は、「今年全ての会合で利上げを実施」という予想がコンセンサスになりつつあります。
このように考えると、ロシアによる余程の厳しい戦争、例えば「核戦争」や、「第3次世界大戦」のような事態にならならない限り、ドル円は上下を繰り返しながらも上昇を続ける可能性が高いとみています。テクニカルでみても、117円台半ばからは、2016年末から2017年にかけて記録した118円66銭までこれといった上値のメドはありません。ただ直ぐにはないとは思いますが、急転直下、「停戦合意」ということになれば、株価は急騰し、円が買われる可能性もあるように思います。もっとも、その時はリスクオンが強まり、債券が売られ、長期金利も上昇すると思われ、これがドル円の支えになることも考えられます。今週はドル円も相当なボラが予想されます。
外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算20年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書。