3月28日に125円10銭を記録したドル円はその日のNY市場から「下げ足」を速め、その週には121円28銭まで押し戻されました。目先のドル高のターゲットでもあった「125円」に届いたことで、「達成感」が出たことや、上昇スピードが速過ぎたことなどから急落する局面になりましたが、再び125円が視野に入る水準まで戻ってきました。「強いドル」というよりも米金利の上昇に引っ張られる格好で上昇しています。
米10年債が下落基調を続け、金利が上昇していますが、機関投資家などは保有する債権の価格が下がっていることで、含み損を抱えているところもあるのではないかと推察しています。含み損を回避するため、利益が出ている債券を手放す動きが金利上昇につながっていますが、加えて、FRBは早ければ5月の会合で、保有資産の縮小に踏み切る可能性を示唆しています。
先週公開された3月のFOMC議事録では、「参加者は総じて、米国債で月額600億ドル程度、MBSで同350億ドル程度を上限とすることが適切になりそうだとの見解で一致した」と記され、「参加者はまた、市場環境から見て妥当と判断される場合は縮小規模の上限を3カ月ないし、それよりやや長い期間をかけて段階的に導入し得るとの認識でもおおむね一致した」とありました。また政策金利については、「特にインフレ圧力の強い状態が続く、ないしはさらに強まった場合、今後の会合でFF金利誘導目標レンジの0.5ポイント引き上げを1回以上行うことが適切になり得ると、多くの参加者が認識した」と記されていました。(ブルームバーグ)3月の会合では0.25ポイントの利上げを決めましたが、これは、ロシアのウクライナ侵攻が起きたことで0.25ポイントの利上げにとどめたとあり、ウクライナへの侵攻がなければ多くの当局者が0.5ポイントの利上げを支持していたことも判明しています。日本の機関投資家などがポートフォリオの一環として金利面や流動性という観点からも非常に魅力的となってきた米国債への投資を増やせば、金利上昇を抑制することにつながりますが、一方でFRBがこれまで通り金融緩和策の一環として同国債を市場から購入しなくなることで、金利上昇が進み易いとの見立ても出来ます。「中央銀行には逆らうな」という原則からすれば、この先も緩やか米長期金利は上昇するのでしょうが、先週まで6営業日連続で上昇している同金利はそろそろ調整局面があってもいいころかとは思います。
ロシアがウクライナでの軍事作戦を統括する司令官にドゥボルニコフ司令官を任命したことで、ウクライナ東部で大規模な軍事行動を展開するのではとの観測が強まっていますが、ウクライナのゼレンスキー大統領は、これに対応する用意があると述べています。
ロシアの残虐で国際人道法違反の行為に対して世界中から非難に声が挙がっており、ジョンソン英首相は事前予告なしにウクライナの首都キーウを訪れ、ゼンレンスキー大統領と会談をするとともに、新たな武器供与を表明しました。また米国もロシアのウクラナ東部攻撃に備え、スロバキアを通じて地対空ミサイルシステム「S300」を初めて間接供与したと発表し、さらに米国製ミサイル防衛システム「パトリオット」を配備することを明らかししました。ロシアがウクライナ侵攻を開始してから7週間目に入りました。当初の計画に反してウクライナ、特にマリウポリを陥落できずに焦ってきたプーチンは、自国の膨大な戦費の問題もあり、一日も速く決着を付けたと思っているに違いありません。先週、最近テレビなどで引っ張りだこの、小泉悠東京大学先端科学技術研究センター専任講師の話を聞く機会がありました。小泉氏は、ウクライナが対ロシアとの戦争で事前予想以上に健闘してことを、ウクライナには徴兵制があり、現在法律で国内に留まらなければないない60歳以下の男性は、おおむね1〜2年程度の軍事演習を経験してきており、即戦力になったことと、「国を守る」といった大義に国民が一致団結していることから、ロシアとは士気が異なる点を挙げていました。プーチンは死ぬまで戦争は止めないとも藩離しており、可能性は低いものの、旧KGBからのクーデターの可能性にも言及していました。ただそれでもプーチンなきロシアには「プーチン・システム」のようなものが残り、その影響が残るとも語っていました。今回のロシア戦争は、武器はさらにハイテク化、大型化し、攻撃も無差別化してきました。泥沼化の様相も呈してきました。
ドル円は週明け月曜日の午後再び125円台に乗せ、本稿執筆時に125円39銭と、前回の高値を抜いてきました。明日12日には米3月のCPIが発表されます。すでに予想は2月の「7.9%」を大きく上回る「8.4%」と予想されており、FRBによる利上げ観測の高まりからドル買いが優勢な見通しです。
外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算20年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書。