「黒田ライン」と言われてきた125円86銭を抜けてから一段と勢いが増した円安は、先週129円台まで上昇し、20日には129円41銭と、約20年ぶりとなる円安水準を記録しました。急激な円安が進んだことで、政府財務省は「悪い円安」という言葉を駆使しながら行き過ぎた円安をけん制するのにやっきになっていますが、一方日銀が2%の持続的な物価目標を達成するため粛々と緩和姿勢を続けていることから、「口先介入」で瞬間円高に振れる場面があっても直ぐに元の水準に押し戻される流れが続いています。先週ワシントンで行われた「G7」でも、イエレン・鈴木会談で協調介入の可能性を一部メディアが報じると、ドル円が127円台後半まで円高が進む場面もありましたが、その日の夜には今度は黒田日銀総裁が講演で「粘り強く金融緩和策を続ける」と発言したことからドルが買われ、129円台前半まで急伸する場面もありました。黒田総裁はコロンビア大学で「日本の物価情勢を考えても、目先予想されるインフレ率の上昇は、 コスト・プッシュが主因で持続力を欠くものであるため、金融緩和を継続することで問題ないということだ」と述べています。日銀は、足元では確かにインフレ圧力が強まってはいるものの、仮に物価上昇が2%を超えたとしても、それが持続する可能性は低く、そのため拙速な政策変更には踏み切れない状況だと見ているようです。今週28日(木)には日銀政策決定会合が開かれますが、従ってここでの政策変更はないものと思われますが、黒田総裁の発言のニュアンスが変わるようだと、円が買い戻される可能性もあります。逆にこれまでの発言をそのまま単純に繰り返すようだと、再び円売りが強まるかもしれません。
ドル高の流れが続いていることからユーロドルも下落基調が続いています。ユーロドルは1.0757まで売られ、約2年ぶりとなる安値を付けています。これはドル高の影響に加え、ロシアによるウクライナ侵攻の影響を受け、地理的にも近い欧州では景気が弱まるといった見方からも売られています。特にドイツではロシアへの制裁の一環として、同国からの天然ガスパイプライン「ノルド・ストリーム2」の停止を決めるなど、景気への悪影響が避けられない見通しです。ただ、ユーロ圏でも米国に近い勢いでインフレが進んでおり、今年の夏前後には政策金利の引き上げの可能性があると見ています。対ドルでの上昇には限界があるとしても、対円では今後も強含む可能性はあろうかと思います。ユーロ円は先週一時140円まで買われ、約7年ぶりの高水準を記録しています。結局、ドル、ユーロ、円の中で「最弱通貨円」が定位置になりつつあります。この関係がどこまで続くのかは不明ですが、少なくともこの夏ごろまでに順位が入れ替わる可能性は低いと予想しています。
「山高ければ、谷深し」という格言がありますが、この先円高に振れる可能性はありますが、どこまで深押しするのか、甚だ疑問です。あるとすれば、「120日移動平均線」(EMA)からの乖離率がさらに上昇し、警戒感が強まりドルが反転するケースに注目しています。現在同線は118円前後にあり、足元のレートからは8円50銭(7.2%)ほど乖離しています。10%前後乖離すると短期的には買われ過ぎのサインと見ることも出来、警戒感も出て来ます。単純計算で、10%乖離は129円80銭ということになり、やはり130円前後が重要だということになります。
外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算20年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書。