引き続きドル円では荒っぽい動きが続き、先週はさらにその動きが加速し、週間で3円81銭もの値幅がありました。週初に131円35銭まで買われ、上昇傾向がさらに強まったとみられたドル円でしたが、米長期金利が低下傾向を見せ始めると、徐々に円を買い戻す動きが強まり、NY株が大幅な下げを演じたことも加わり、週後半には127円54銭までドルが反落しました。「リスク回避の円買い」が復活したといった観測も出たほどでした。その後は米長期金利が再び上昇したことで、週明けには129円台半ばを回復する場面もあり、「フィボナッチ・リトレースメント」でいう所の、「半値戻し」を達成しています。先週の「アナリスト・レポート」で述べた通り、今のところは依然としてドル高トレンドが続いていると判断できそうです。そうなると、今回の4円に迫るドルの下落も、「ドル高の中での微調整」といった位置づけになるのかもしれません。
ただ、慎重に周りを見渡してみると、今後ドルはそれほど上昇しないと予測する専門家が増えて来たのも事実です。その理由に挙げているのが、「米国のインフレはピークを付けた」といった意見や、「日銀が近いうちに現行政策の修正を迫られる」といったものが多く見受けられます。個人的には、米国のインフレがピークを付けたかどうかの判断はまだできず、今後発表される数カ月間のデータを見極める必要があろうかと思います。少なくとも4月までに発表されたデータでは確認されません。また、日銀の政策修正についても、黒田総裁の下ではまだその可能性を示唆するものは発せられていません。また、確かに足元のインフレ率は上昇していますが、それはまだ一過性の域を超えているとは思えず、長い間続いてきたデフレからの脱却が終わったのかも確認出来ません。従って日銀としても拙速な政策の変更には抵抗があろうかと思います。日銀で長い間インフレの研究に従事してきた渡辺努東大教授は、日本で金融を引き締めれば、「急性インフレに対してはプラスでも、生産活動や雇用に悪影響を与えるので、慢性デフレにはマイナスです。消費者は生活防衛に走って、今以上に価格に敏感になり、企業は価格の据え置き慣行を強めることになるでしょう」と述べています。(文芸春秋6月号より)
今週は17日(火)の米4月の小売売上高と、20日(金)の日本の消費者物価指数の発表に注目しています。40年ぶりのインフレが続く中、米国民の間にガソリンを除く消費支出を控え、買い控えが起きているのかどうかといった点と、日本のCPIについては、上記理由から今回は注目に値します。また、17日(火)にはパウエル議長の講演もあります。議長は先週、上院で再任された際に「6月、7月の2会合では0.5ポイントの利上げが適切になる」と発言する一方、「0.75ポイントの利上げが積極的な議題になることはない」と、これまでの主張を繰り返しています。これらの発言が繰り返されるのかどうかに注目しています。またドルが130−135円の新しいレンジ形成には失敗していますが、125−130円のレンジに戻るのかどうかについても同様に注目しています。
外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算20年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書。