ドル円は徐々にドルの上値が重くなっています。少なくとも、4月初めの121円台からわずか2週間強で130円台まで急上昇したような勢いは影を潜め、ここ2週間は127円から130円台半ばでの動きに収まっています。値幅はそこそこあるものの、下値を切り下げる展開となっており、週明け月曜日も朝方は127円台後半で取引されていましたが、昼前には127円15銭までドルが売られる展開でした。
その理由の一つが、NY株が連日大きく売られているにもかかわらず、「底値感」が出て来ないことから、総体的に債券に資金が向かい、米長期金利がやや低下傾向をみせていることにあります。米長期金利は5月9日に3.2%まで上昇した後、足元では2.7〜3%前後で推移しており、米長期金利との相関が強いドル円の上値を抑える格好になっています。FRBは6月、7月の会合で、0.5ポイントの利上げを実施するとみられていますが、これはほぼ織り込まれており、それ以上の利上げ観測が高まらない限り、金利高、言い換えればドル高の可能性は望めないのかもしれません。また、FRBの積極的な利上げスタンスから、米景気はリセッションどころか、スタグフレーションに陥るのではないかといった見方も強まっており、これがNY株の下落につながっています。先週末のNYダウはザラ場では600ドルを超える下げを演じる場面もあり、ダウ平均は3万500ドル台まで沈みました。最高値3万6000ドル台からは5000ドル以上の大幅な下げとなり、金利上昇に加え、米景気の悪化を織り込む動きとも解釈できそうです。
ドルの下値の重要なサポートゾーンは127円前後です。今朝もやはり127円15銭までドル売りが進みましたが、その後127円台後半まで押し戻されています。これで、このレベルを試し、押し戻されるのはここ1カ月でも4回目となります。値ごろ感からドル買いの好機とみた投資家の買いが集まり易いということでしょうが、一方でここを下抜けするとドル売りが加速すると予想します。その場合、次のサポートは125円前後ということになり、レンジも新しく125〜130円に入ることになりそうです。
ただ、現時点ではドルの大幅下落は考えにくく、「日足」チャートを基本に見れば、ドル高トレンドの中での「調整」の範囲内にいると考えます。ドル円が再び130円台を回復し、131円を目指すには、株価の大幅な反発か、9月のFOMCでも「0.5ポイントの利上げ」の可能性が強まることが必要かと思います。NYダウは上述のように、大幅なマイナス圏からプラスに転じて取引を終えたため、「長い下ひげ」が点灯しており、ひょっとしたら短期的な浮上のチャンスはあるかもしれません。また、9月の会合については、市場の見方は0.25ポイントか0.5ポイントの引き上げ予想に分かれていますが、これが、0.5ポイント利上げ観測に大きく傾くなら再びドル上昇のきっかけになると予想しています。今週末発表のPCEデフレータ次第ではその可能性も若干あるかもしれません。現時点での予想は、デフレータが年率で「6.2%」(前月は6.6%)、コアデフレータでは年率で「4.9%」(前月5.2%)と、いずれも前月より鈍化しているとみられています。WTI原油価格は再び113ドル台と、高水準で推移しており、インフレ率を下げるには、米景気の下振れリスクに大きな圧力を加える必要があるのかもしれません。
外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算20年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書。