ドル円の戻りが急です。先週のちょうど月曜日にドル高へと向きを変え、この1週間で3円ほどの上昇を見せています。この間、ユーロドルがほぼ1.07台で推移し、ほとんど変わっていません。従って、ユーロ円は136円前後から4円も円安に振れ、先週末のNYでは140円37銭まで上昇。実に約7年ぶりのユーロ高を記録しています。主要通貨ではドル高が進む中、円の独歩安と、ユーロの堅調さが際立っており、市場全体で見るとドルが最強で、円が最弱といった構図になっています。FRBは6月、7月に続き、9月の会合でも0.5ポイントの利上げを支持するFOMCメンバーが増え、それまで弱含みの経済指標が相次いだことから「9月の利上げは見送られる」といった市場のコンセンサスが一気に0.25ポイントの利上げを超え、0.5ポイントの利上げまで高まったことが背景です。
ただ、この高まった大幅な利上げ観測もこのまま推移すかどうかは不透明です。仮に重要な経済指標一つが大きく下振れすれば市場のセンチメントが一変するほど、市場は手探りで拠り処を探っている状況だからです。その意味では、今週10日(金)に発表される5月の消費者物価指数が最も注目される材料だと言えます。現時点での予想は、総合CPIが「8.3%」と、4月と変わらないと予想され、コアCPIは前月の「6.2%」から鈍化して「5.9%」(いずれも前年同月比)と予想されており、幾分インフレが収まるとみられています。この傾向が6月のCPIにも見られるようようだと、「米国のインフレはピークを打った」との観測が急速に強まり、株高、債券高から金利が低下して、ドル円も再び下落に転じる可能性もあります。「米国のインフレはいつピークを付けるのか?」が、足元の最大の関心事であり、最も相場を動かす材料になっています。それだけに、市場の「行き過ぎ」は頻繁に起こり、これがボラティリティーの高さにつながっていると考えられます。
一方でインフレがさらに高進するリスクも残っています。WTI原油価格は先週のNY原油先物市場で、一時120ドル台まで上昇する場面もありました。原油価格の上昇はガソリン価格に直結します。自動車社会の米国では「車」は不可欠の移動手段で、ガソリン価格の上昇が家計に占める割合は日本の比ではありせん。バイデン大統領は先週のパウエル議長との会談でも「最も重要な解決しなければならない課題」して「インフレ阻止」を掲げており、その分パウエルFRBにもかなり強いプレッシャーがかかっています。5月のCPIが予想を上回るようだと、市場はさらにその先の金融政策を読み始めることとなり、ドル上昇圧力が強まります。ドル円が直近高値の131円35銭レベルを明確に抜ければ、次の抵抗帯は2002年5月に記録した132円から135円のゾーンになりそうです。もっとも、そこへ行くまでにはまだ一波乱も二波乱もありそうです。
外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算20年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書。