先週29日(水)に137円ちょうどと、24年ぶりのドル高水準を付けたドル円でしたが、その後はやや軟調な展開が続いています。「2歩前進しては1歩後退する動き」は続いていますが、先月中旬に見られた1日で4円下落し、翌日には4円戻すといった極めて荒っぽい動きにはなっていません。ドルが下がったところをすかさず拾う動きが相場を支えていると思われますが、それでも大きな下落にはつながっていないため、なかなか押し目買いのチャンスが来ないのが現状です。ただ特徴的なのが、ドル円は米長期金利の低下傾向にもかかわらず堅調に推移しているという点です。特に先週末のNYでは長期金利が一時2.8%を割り込む水準まで低下し、約5週間ぶりの低水準を記録したにもかかわらず、ドル円は134円台後半までしか売られません。その後再び135円台前半で推移しています。因みに137円台を記録した時の米長期金利は3.09%前後で推移しており、6月14日に3.5%前後まで上昇した同金利が明らかに低下傾向を見せる中、ドル円は堅調だということです。
米長期金利の上昇にブレイキがかかった背景は何となく説明がつきそうです。3.5%前後という金利水準は、機関投資家にとっては魅力的な水準であるという点です。今後さらにFRBが利上げに踏み切ったとしも、政策金利の水準は3.5〜4.0%が一つに目安と考えられていることもあり、上昇の余地は限定的です。むしろ、今後本当にリセッション入りした場合、利上げペースはかなり緩やかなものになる可能性もあります。従って、3〜3.5%辺りでは、実需の買いも出て来たのではないかと想定されます。
一方なかなか今の金利水準からすれば説明がつきにくいのがドル円の動きです。上でも触れましたが、137円から下げたとはいえ、週明け月曜日も135円台前半で推移しています。考えられるは、先日のスイス中銀の予想外の利上げもあり、改めて中銀による金融政策の方向性が意識されているかと思います。明日5日(火)はオーストラリア準備銀行の政策会合があり、ここでは3会合連続の利上げも予想されています。また、すでに今月21日の会合での利上げを示唆しているECBですが、6月の消費者物価指数(CPI)は過去最高となる「8.6%」でした。今や米国をも凌駕する勢いでインフレが進んでいることから、0.25ポイントの利上げがコンセンサスになっていますが、0.5ポイントの利上げの可能性が高まってきたことも金融政策の差が注目される背景になっていると考えます。
米国のリセッション入りを予想する専門家が増えてきました。経済指標の予想に対する実際の数値の差を表す「米エコサプライズ指数」も、現時点では「マイナス0.26」と、過去最低水準に近い動きをみせており、これはFRBにとって「朗報」でると同時に、想定内の動きであると思われます。従って今月のFOMCでの追加利上げの可能性が消えることはなく、今週末の雇用統計や、6月のCPIの結果を見極める必要があり、結果次第というところはありますが、個人的には0.75ポイントの利上げ予想を維持しています。パウエル議長は先週、ECBのフォーラムで「景気の下振れリスクよりも、インフレを止められないリスクの方が大きい」と言明していました。中途半端にやるのではなく、徹底したインフレ抑制の政策を取るのではないかと考えます。米景気後退に伴ってドルが売られる状況はまだ先のことになると予想しています。
外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算20年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書。