先週のドル円は大きく売られ、先週だけで5円近くもドル安円高が進みました。前回6月の下落局面でも同じように5円程急激に円高に振れるケースがありましたが、その時は5円下げ、底値を付けた後急上昇し、翌日には5円戻し元の水準を回復し、その後はご存知のように139円39銭までドルが買われています。その意味では、今回の下げは今年の初めから続いた「ドル上昇局面」で最大の下げと言え、今回の下落で上昇局面が終わったのかどうかを判断するのが、大げさに言えば、われわれ専門家に課せられた最大の使命と言えます。
ドル円急落のきっかけはFOMCと、その後のパウエル議長の会見にありました。利上げ幅は予想通り0.75ポイントで、その前には1ポイントの利上げ観測が高まった経緯もあり、これだけでも織り込み済みでドルが売られ易い状況でした。会見でパウエル議長は「今後の政策はデータ次第だ」としながらも「いずれ利上げペースを落とすことになる」と発言したことが「効いた」のか、大幅な利上げ観測が後退し、ドル円が売られ、リスク資産の株式が大きく買われ、債券も買われたことから金利が低下しドル売りにつながりました。その後、GDPの2四半期連続のマイナスやPMIの下振れがさらにドル売りに拍車をかけ、先週末には132円50銭近辺まで円高が進みました。週明け月曜日にはさらに円高が進み、一時132円07銭まで円高に振れています。東京時間に投機的なドル売りが出ることにやや違和感を覚えますが、ドル買い持ちの調整の動き以上のものを感じます。
上記パウエル議長の発言は確かに「ハト派的」であったことは確かで、今後FRBが利上げ速度を緩める可能性があるのも頷けます。ただ、それでもまだ金融引き締め政策を変更することはないと考えます。それは、多くのFOMC参加者も述べているように、それには「インフレがピークアウトした明確で説得力のある証拠(エビデンス)が必要」だからです。そのエビデンスを入手するまでは利上げスタンスは変わらないだろうと考えていますが、だからと言ってドル円が反転するということでもありません。ドル円の動きは必ずしも米長期金利にだけ左右されるものではなく、当たり前ですが、それ以外の要因でも動きます。特に重要なのがテクニカルで「売りサイン」が出るかどうかです。今後ドルがさらに売られ、テクニカルでも「ドル高トレンド終焉」のサインが点灯すれば、多くの投資家がドル売り陣営に参入すると思われます。チャート上、ドル高トレンドの終焉を示唆するレートは131円29銭辺り(日足の雲の下限)と見ていますが、今夜のNYで131円50銭を割り込むようだと、その前哨戦と受け止められるかもしれません。上記レートは多くの市場参加者が目にしているため、非常に意識される水準です。
今週は週末の「7月の雇用統計」が最も注目される指標ですが、それ以外にも本日のISM製造業景況指数など、米景気に関するあらゆる指標にも反応する可能性がありそうです。筆者は特に2日(火)のブラード・セントルイス連銀総裁の発言内容が重要ではないかと考えています。なぜなら、ブラード総裁はタカ派の代表格であり、今回のインフレ高進に対しても早くから警鐘を鳴らしており、積極的な利上げを提唱して来ました。今回のインフレの急伸を言い当てた人物です。その総裁がこれまでの大幅利上げに対して「十分」だといったニュアンスの発言をするかどうかに注目しています。同総裁がこれまで通り、インフレの高進に対して依然として慎重な姿勢を示すようなら、再び大幅な利上げの可能性が残ると受け止められるからです。いずれにしても、市場へのインパクトは大きいとみています。
外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算20年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書。