先週末のジャクソンホールでのパウエル議長の講演は、想定した通り「タカ派的」であって、やはりインフレ抑制への強い意志をみせ、7月のインフレ率がやや低下したものの、ここで手綱を緩めることはしないとのメッセージを市場に送ったように思います。 7月のCPIやPPIがやや鈍化し、GDPが2四半期連続でマイナス成長を記録し、さらに足元ではガソリン価格が明らかに低下傾向を見せたことで、市場にはややインフレに対する楽観ムードが漂い始めていました。パウエル議長は、インフレ率2%への回復が見込めるまではインフレ抑制を最優先することに言及し、そのため、企業や家計が痛みを伴うことも想定した中での発言でした。9月の利上げ幅については、入手できるデータを総合的に判断して決めるとし、まだ白紙の状態ですが、現時点では0.5ポイントか0.75ポイントかのどちらかであることは間違いないところかと思いますが、これもデータ次第ではどちらか一方にバイアスがかかり、為替も大きく動く可能性があります。先ずは、今週末に発表される「8月の雇用統計」の結果を見極める状況です。
先週末に発表された7月のPCEはやや低下していたものの、依然として高水準でした。同指標はFRBがインフレ目標の基準としており、消費者物価指数(CPI)よりも重要視していると言われているものです。総合価格指数は(前月比)は「マイナス0.1%」と、パンデミック初期以来のマイナスでした。またコア指数も、エネルギー価格の急低下により前月よりも鈍化していましたが、食品コストが引き続き上昇しています。今後も徐々に鈍化する可能性はありますが、それでも高めに推移する状況は続きそうです。
ドル円は先週末のNYの流れを受けドル買いが先行し、東京市場では一時139円前後までドル高が進み、7月15日以来となる水準を付けています。ここまで来ると、7月14日に記録した139円39銭も視野に入ってきたと考えるべきでしょう。138円台半ばから上方は、ドル売り注文も多く集まると思われます。前回は139円39銭を付けた後、わずか3週間ほどで130円39銭まで9円もドルが売り込まれた経緯もあり、輸出筋を中心にドル売りが持ち込まれ易い水準かと思いまます。今回同水準に近づく局面があった場合、そのレベルを超える勢いがあるかどうかです。その場合の試金石になるのが、今週末の雇用統計です。7月の雇用統計では非農業部門雇用者数が市場予想の2倍を超える「52.8万人」と、サプライズでした。8月の同指標については、今回も好調だとの見方が支配的です。予想は前月より減少するものの「30万人」の増加と、もし予想通りだったら「好調」といった形容詞が与えられる水準です。失業率も前月と同じ「3.5%」と予想されており、このような結果であったら、ドルが売られる可能性は少ないとみています。ブルームバーグは「8月の雇用者数は、より緩やかながらも健在なペースで雇用の伸びが続いていることを示す見込みだ。米労働市場の耐久性と力強さを裏付けるものとみられている」と伝えています。仮に8月の雇用者数が予想より上振れするようなら、労働市場の好調さを示すことで、インフレ抑制にはマイナスとなり、FRBが利上げペースを鈍化させにくいとの連想からドル円が上昇する可能性が高まります。
今週の焦点は、7月14日の直近高値を抜くことができるかどうかという点です。
外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算20年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書。