ドル円は先週後半についに140円の大台に乗せ、週末の雇用統計発表後には140円80銭までドル高が進みました。先月2日に130円39銭前後までドルが売られ、ドル高は終わったのではないかとの観測も高まった時から、ちょうど1カ月で10円50銭近くドルが買われたことになり、かなり急激なドル高が進んだことになります。1998年8月以来のドル高水準となりますが、日米欧の中央銀行の金融政策が大きく異なり、今更ですが、このスタンスの違いが投機筋だけではなく、多くの個人投資家にも「ドル高は続く」との動機付けになっています。
きっかけは、やはり1週間前のジャクソンホールでのパウエル議長の講演でした。ここでパウエル議長が、インフレの高進が止まるまで、金融引き締めのアクセルを踏み続ける姿勢を鮮明にしたことです。それ以降FOMCメンバーは講演で、パウエル議長と足並みを揃えるかのように、タカ派的発言を行い、市場に、今後のデータ次第とはいえ、9月会合では0.75ポイントの利上げの可能性も十分あり得ることを認識させました。一方で黒田日銀総裁は、これまでの主張を繰り返し、「金融緩和政策の必要性を説く」ことに終始しており、このシンポジウムを境に、より市場の円売り姿勢が強まった印象です。ドル円は24年も前に記録した水準まで上昇したため、手許のチャートでは「日足」はおろか、「週足」でも過去のレートは追えず、「月足」で見ると、1998年8月には147円64銭という高値を付けており、その間、抵抗らしい抵抗も確認できない状況です。このままドル高がどんどん進む地合いではないとは思いますが、9月のFOMC会合では0.5ポイントか0.75ポイントの利上げを行うことが確実な状況であることから、金利高に支えられドルは底堅い動きを続ける可能性が高いと思われます。
FOMCを前に、今週は主要中銀がこぞって利上げに動くことが予想されます。先ず6日(火)にはRBAが0.5ポイントの利上げを決めると予想されています。オーストラリアの消費者物価指数(CPI)は4−6月期に「6.1%」と、RBAの2−3%の目標レンジ上限の2倍となっており、雇用も順調なことから0.5ポイントの利上げが見込まれています。実現すれば、4会合連続の0.5ポイント利上げとなります。7日(水)にはカナダ中銀も0.5ポイントの利上げに踏み切ると見込まれています。
そして8日(木)にECBが理事会で0.5ポイント、あるいは0.75ポイントの利上げを行うとみられています。先月末に発表されたユーロ圏の8月のCPIは過去最高の「9.1%」でした。ユーロ圏ではエネルギー価格の上昇等により、景気後退が鮮明で、さらに終わりの見えないロシア・ウクライナ情勢の不透明感もあり、大幅な利上げは困難とみられていましたが、理事会メンバーの一部からは0.75ポイントの利上げを支持する発言が出てきました。特にインフレに対して強い意志を持つドイツ連銀やオーストリア連銀総裁などがタカ派的な発言を繰り返しています。市場にも0.75ポイント利上げもあり得るとの見方が増えていますが、仮に0.75ポイントの利上げが実施された場合、下落傾向のユーロドルにハドメがかかるのかという点も注目されます。足下ではユーロドルのパリティ割れが常態化していますが、それでも0.99台前半では下げ止まる傾向が続いています。ECBにとって、大幅利上げを決定することで通貨ユーロの下落を止めることが出来、それが輸入物価の上昇を抑えることにつながり、その結果高インフレを抑制することにも一役買います。この筋書き通りに上手くことが運ぶかどうかは別にして、これから冬に向い、もう一段のエネルギー価格の上昇も予想される中、個人的には0.75の利上げを予想しています。
外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算20年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書。