先週のドル円は一段と上昇し、145円にわずか1銭届かなかった149円99銭までドル高が進み、マスメディアからは「ドル円、24年ぶりの安値に」といった報道が盛んに流されました。パウエル議長のタカ派発言はこれまでと変わらず、「インフレ鈍化の確証を得るまでは金融引き締の手綱を緩めない」といった強い決意を示し、発表された8月のISM非製造業景況指数などでも上振れが示されたことでドル買いが加速した結果でした。ただ、ドル円は週末には141円台半ばまで値を戻すなど、引き続き神経質で、荒っぽい動きが続いています。
週末の黒田日銀総裁の発言は、1日に2、3円動くドル円相場を牽制するものでしたが、145円近くまで上昇したドル円を考えれば、当然のことで、想定内のものでした。今後も145円を超える水準があるようだと、さらに強い内容の牽制発言が出て来ると思われますが、一時的に円高方向に振れる可能性はありますが、「ドル高トレンド」を変えるものではないと考えます。むしろ、投機筋に「絶好のドルの買い場」を提供することにもなりそうです。実際、先週145円手前まで買われ、その後黒田発言などで141円台半ばまで押し戻されたドル円は本コメント執筆時には143円24銭まで反発する場面もありました。サマーズ元米財務長官も、一連のファンダメンタルズを考慮すればドルには一段の上昇余地があると述べ、日本当局が円の形勢を一変させるため「為替介入」に踏み切ったとしても、その効果は疑わしいとの見方を示しています。サマーズ氏は、ブルームバーグ・テレビジョンの番組で、「現在のドルの強さを見ると驚くべきだと」し、「これが継続する余地はあると推測される」と述べています。サマーズ氏はその理由として、「ひどく高価な外国産エネルギーに依存していないことが、米国の並外れた強さだ」と指摘し、金融政策は他の中央銀行より早いペースで引き締めに動いており、「こうした様々な要因の全てが、米国を資本の逃避先、つまりマネーのメッカにしている。ドルに資金が流入しているのはそのためだ」と説明しています。
今週の焦点は13日(火)発表の米8月のCPIです。事前予想では、前年同月比で7月の「8.5%」から「8.0%」に低下するとみられていますが、これは原油価格などが大幅に低下し、ガソリン価格の低下傾向が続いていることが大きな要因とみられます。しかし、変動の大きな食品とエネルギーを除いたコアCPIでは7月の「5.9%」から「6.1%」に上昇していると予想されています。「今日のアナリストレポート」でも触れましたが、8月のCPIが予想通り鈍化していても、20−21日のFOMCでは0.75ポイントの利上げを決めるのではないかと考えています。
足下のドル高を止めるには、米国のインフレ率がピークアウトしたという持続的かつ説明できるデータが出て来るか、あるいは日銀が大規模な金融緩和策の修正に動くかしかありません。今の段階では両者ともそのタイミングではなく、いずれもまだ先のことと考えます。ドル円の水準には警戒感も必要ですが、再び145円をテストする可能性が高いと予想します。先週のように一気に4円も円安が進むことはないとしても、145円を超えていけば、1998年に記録した147円64銭というドルの高値が意識されることになりそうです。また大幅利上げに踏み切ったことでパリティを回復してきたユーロドルの動きにも注意が必要です。ECBがさらに大幅利上げに動くと予想されるようだと、1.02近辺まで反発する可能性もあるかもしれません。
外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算20年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書。