先週末、再び145円台に乗せたドル円は、介入に対する警戒感と、米金融当局による引き締め政策との綱引き状態でした。145円台に乗せると売られ、144円台後半では買われる一進一退が続いていましたが、その動きから短期的にも明確な方向性を示したのが、「米9月の雇用統計」でした。雇用統計では非農業部門雇用者数が市場予想の「25.5万人」を上回り、「26.3万人」と上振れ、さらに失業率は「3.5%」と、前月よりも改善して、再び50年ぶりの水準に低下し、米労働市場の堅調さを確認する形になっていました。ドル円はその後、昨日のNYでは145円80銭まで上昇し、9月22日に円安が急速に進み、政府日銀の市場介入を決断させたレベルに接近してきました。
連休明けの東京市場では、レベル的にはいつ介入があっても可笑しくはないといったところで、145円台半ばから後半で小動きとなっていますが、ドルが底堅い動きを続けています。本稿執筆(11日13時50分)時点では「口先介入」もなく、嵐の前の静けさといった雰囲気ですが、岸田首相は、英フィナンシャル・タイムズ(FT)とのインタビューで、最近の円安が進んでいる状況下でも、日銀の超金融緩和政策を支持する姿勢を示唆しています。首相は、賃金が上昇するまで現行の日銀政策は維持される必要があると指摘し、値上げを実施する企業は賃金も引き上げるべきだと語っています。日本の物価上昇率はまだそれほど急激ではなく、欧米の4分の1程度です。ただ、欧米では物価が急激に上昇していても、賃金もそれなりに上昇しており、先週末の米雇用統計では9月の平均賃金は年率で5.0%上昇していました。人手不足が続く米国では高賃金を提示しないと労働力が確保できない状況が続いており、この流れが堅調な個人消費を維持し、さらに米景気の底割れを防いでいるとの分析もあります。このような状況が続くと、今後高インフレで苦しむのは米国ではなく、日本ということもあり得るかもしれません。
今週はドル円がどこまで上昇できるのかといった点と、どの水準で再び市場介入が実施されるのかが焦点になります。その流れに大きな影響を与えるのが13日(木)発表の「9月の消費者物価指数(CPI)」です。9月のCPIは年率で「8.1%」と、8月の「8.3%」から鈍化しているとみられています。一方コアCPIでは、「6.5%」と予想され、こちらは前月の「6.3%」から上昇しているとみられています。いずれにしてもFRBが目標とする2%の物価上昇に対して4倍の上昇率です。9月の雇用統計ではFRBの今後の引き締め政策がなだらかになるといった期待も吹き飛んでしまった感がありますが、9月のCPIではその期待が高まり、積極的な緩和姿勢にややブレイキがかかるのか、注目されます。ブレイナードFRB理事は講演で、金融政策はしばらく抑制的なものになるとしながらも、積極利上げにおける慎重姿勢も重要だと指摘していました。ただ多くのFOMCメンバーは早期の利上げを支持する姿勢を維持しているようです。何もしなければドル円は上昇して行くのが自然の流れでしょう。力ずくで相場を下押しさせた場合、やはりそこはドルを拾って行くのが基本かと思います。大局的なトレンドは依然としてドルに分があるとみています。
外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算20年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書。