政府・日銀によるドル売り介入への警戒感もあり、ドルの上値がやや重くなってきた中、FRBは12月会合で、これまでの急激な利上げスタンスを縮小すべきかどうかの議論を開始するといった見方も浮上し、ドル円は145円割れをテストする水準まで押し下げられました。実際、先週のFOMC声明文では、「金融政策の適切なスタンスを見極める上で、委員会は今後の情報が経済見通しに与える意義を引き続き監視する。委員会の目標達成が妨げる可能性のあるリスクが出現した場合、委員会は必要に応じて金融政策を調整する用意がある。委員会は公衆衛生や労働市場の状況、インフレ圧力やインフレ期待を示す各指標のほか、金融・国際情勢などを幅広く考慮して判断する」と、これまでにはなかった、「リスクの出現」や、「金融政策を調整する用意がある」といった文言が記されていました。さらにパウエル議長も会見で、「どこかの時点で、利上げペースを落とすことが適切になるだろう」とも指摘し、「その時期は近づいており、早ければ次回、ないしはその次の会合となる可能性はある。何も決定していない」と述べ、さらに突っ込んだ言葉で言及しましたが、最後に「(利上げの)停止について考えるのはあまりにも時期尚早だ」と述べ、市場の楽観的な観測をけん制しました。パウエル議長としては、今後政策の見直しを行う可能性を残しながらも、一方でターミナルレートが予想されているよりも高くなる可能性にも触れ、市場に対して、FRBが依然としてインフレ抑制を政策の中心に置いていることを植え付ける狙いがあったものと解釈しています。
ただ、それでも急ブレイキを掛け過ぎとの見方もある金融引き締めを調整する可能性に触れたことは、これまでの一連の利上げステージではなかったことでもあり、今後のデータ次第では大幅利上げの見直しは十分あり得るとの感触が残りました。その意味もあり、先週末の雇用統計の結果が注目されていましたが、残念ながら強弱入り交じり明確なヒントを得るには至りませんでした。確かなことは、米労働市場は引き続き底堅く推移しており、平均賃金も緩やかに上昇し、これが旺盛な個人消費を支えているという現状でした。
今週10日(木)に発表される米10月の消費者物価指数(CPI)は、今後の相場を占う上でも非常に重要な意味合いを持つことになりそうです。現時点では総合指数もコア指数も9月よりは上昇率が鈍化している予想ですが、これが市場予想より低下していれば、米金利の低下に伴ってドル売りが加速することになりそうです。ひょっとしたら、市場予想と同じ結果であっても、「前月よりも上昇率が鈍化した」という事実で、ドル売りにつながるかもしれません。
今週のもう一つの注目は8日(火)に投開票が行われる米中間選挙の行方です。最新のNBCの世論調査によると、劣勢と見られていた民主党が盛り返してきているようですが、ワシントポスト紙とABCニュースの調査では依然として共和党が優位で、下院の過半数を獲得する可能性が高いと報じられています。ただ、ペンシルベニア州など激戦州での情勢は依然として流動的であり、共和党としても予断を許さないところです。仮に下院で共和党が過半数を獲得するようだと、2024年の大統領選で、今後出馬表明を行うと見られているトランプ氏が再び大統領に返り咲く可能性もあります。もっとも、その場合残された2年間、バイデン政権にとっては法案の成立など、政策運営がやりにくくなることは避けられず、これがドル安要因になる可能性もあるかもしれません。今週もドル円の動きには注意が必要です。
外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算20年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書。