ドル円の下げがきつくなってきました。先週、10日(木)に発表された米10月の消費者物価指数(CPI)が予想を下回ったことで、「FRBは今後大幅な利上げをせずにすむ」との見方が急速に高まり、ドル円は発表時の146円台前半から同日のNYでは140円台までドル安が進み、翌金曜日には138円台半ばまでさらにドルが売られています。わずか2日で7円50銭程の円高ドル安が進み、相変らず「相場が下がる時のスピードは上がる時よりも遥かに速い」という過去のアノマリーが改めて確認された格好でした。ヘッジファンドなど多くのドルロングを抱えていた向きがひとまずポジションを解消したと思われますが、同時に140円割れではロングのストップロスなども執行されてたと思われます。
雇用統計、FOMC、さらにはCPIなど、極めて重要なイベントを終え、今後は12月会合での利上げ幅が注目されることになります。CPIの結果を受け、現時点では「0.75ポイントの利上げ」の可能性はほぼ消えたと思います。コンセンサスは「0.5ポイント」ですが、これが今後「0.25ポイント」まで縮まるかどうかといった点です。「0.25ポイント」と言えば、今年3月FRBがそれまで金融緩和策を終了し、引き締め策に舵を切り始め、最初に利上げを決めた際の上げ幅です。FRBはその後、インフレの想定以上の加速もあり、全ての会合で利上げを決め、6月以降は4会合連続で「0.75ポイント」という通常の3倍にあたる大幅利上げを実施してきたことはご存知の通りです。12月会合で「0.25ポイント」になるのかどうかは、もちろん今後のデータ次第です。12月会合は12月13−14日に開催されますが、それまでには11月の雇用統計(12月2日発表)があり、さらには13日に11月の消費者物価指数(CPI)が発表されるといった、極めて微妙なスケジュールになっています。まだ先の話であるため、市場予想も集計されてはいませんが、CPIは多少鈍化する可能性があるかもしれません。ただ、WTI原油価格は85−90ドル程度で推移しており、高止まりの状況です。多少の鈍化が見込まれても、物価上昇率が大幅に鈍化するとは考えにくいところです。
それ以外に注目したいのが、FOMCメンバーによる講演内容です。FRBのウォラー理事は、「先週発表の10月の米CPI上昇率が前年同月比7.7%に鈍化したことは良いニュースだが、一つのデータポイントに過ぎず、FRBが利上げを停止するまでにはまだ道のりは長い」と述べています。このように、データでは改善傾向を見せ始めたものの、メンバーの多くは依然として「慎重な認識を示す」可能性が高いと予想しています。これまで大幅の利上げを実施してきたにもかかわらず、インフレ鎮静化の兆しは見えず、ようやく先週、「トンネルの先に明るさが見えて来た」状況では、慎重にならざるを得ません。「利上げを停止するのはまだまだ時期尚早だ」あるいは、「今後再びインフレが加速するリスクがある」といったコメントも想定できます。その結果、一気にドル安が進みましたが、こういったコメントがドルを下支えする可能性も意識しておきたいところです。
外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算20年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書。