今日の「アナリストレポート」でも書きましたが、ドル円の上値は徐々に重くなり、今年も残すところ1カ月ということを考えると、10月21日に記録した「151円94銭」は今年の円の最安値である可能性が高いと思われます。米国のインフレのピークアウト、原油価格の低下、FRBの大幅利上げペースの鈍化など、今後見込まれる要因を考えると、これからの1カ月で再び152円を試す動きは考えにくいところです。今週の雇用統計やそれに次ぐ消費者物価指数(CPI)が再び予想を上回る高水準だったとしても、152円台を試す可能性は低いと考えます。それでも、インフレ率が6月の「9.1%」を超える状況が今後も継続されれば、その可能性も否定できませんが、ただ、市場のセンチメントは上記151円94銭を記録した当時とはかなり異なっていると思います。「ドルが下がったら、買い」だったものが、「ドルが上がったら、売り」といったふうに、大きく異なってきました。この市場参加者のセンチメントの変化は、市場の流れを見る上で、無視できない大きな材料になります。
今週の注目材料は何と言っても2日の「11月の雇用統計」でしょう。この統計から弾き出される数字が、FOMCで大幅な利上げを継続する根拠にもなっており、11月分についても現段階の予想では、非農業部門雇用者数(NFP)は、先月の「26.1万人」から大きく減少の「20万人」とみられています。もっとも、仮に予想通り「20万人」であったとしても、「20万人の増加」はまずまずの結果であって、この結果だけでドルが大きく売られる理由にはなりそうもありません。
また、30日(水)にはパウエルFRB議長の講演が予定されています。12月13〜14日に行われる今年最後のFOMCを前に、議長の低下しつつあるインフレに対する見方を探る大きな機会と捉えられ、注目されます。足下のインフレ率は徐々に低下傾向を見せており、そのことについては多くのFOMCメンバーが、引き続き慎重な姿勢を維持しています。パウエル議長も同じように慎重な姿勢を見せると予想していますが、要は、どの程度「慎重」なのかと言う点と、他のFOMCメンバーとどこが異なるのかを見極めたいと思います。現時点では12月会合での利上げ幅は0.5ポイントの可能性が極めて高いと思いますが、これが上記2つの重要指標の結果を受け、どのような予想に変わっていくのかが注目されます。
ドル円は何度も触れていますが、「日足」では雲抜けが完了し、下落傾向を示唆しています。さらに長い「週足」や「月足」では依然として上昇傾向を維持していますが、「週足」のMACDではすでに「デッドクロス」を完成させており、ここからは下落傾向がうかがえます。ただ、その「デッドクロス」はまだ「プラス圏」でのクロスであって、本格的に下げるには、MACDとシグナルの両線が「マイナス圏」に突入する必要があります。これらテクニカルから判断すると、ドル円は短期的には下落傾向にあるものの、本格的なドル安傾向に転じたかどうかはまだ不明だということになります。ここから年末にかけてのドル円の動きは、来年初頭の動にも通じる可能性があるため、注意深く観察することが肝要です。
外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算20年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書。