2023年最初の1週間が終わりました。1月3日、日本が祝日の日には130円を割り込み、一時は129円51銭まで「ドル安円高」が進みました。早くも今年の円高予想を想起させる動きが見られたものの、その後は連日ドルが買い戻され、6日の週末には雇用統計前に134円78銭まで「ドル高円安」を付け、その後はご存知のように131円台前半まで押し戻されています。この間の値幅は5円27銭にも達し、昨年からの荒っぽい展開は続いており、今年も簡単な相場ではないことを示唆しています。結局「往って来い」の相場でしたが、その中でも依然としてドルの上値が重い展開だと見ています。発表された経済データをみると、雇用者数だけは、民間のADPも米労働省発表のそれも好調さを維持していますが、これまで順調に上昇傾向を示してきた「賃金」にやや頭打ちの傾向で出て来たことが特徴的であったと言えます。
発表される多くの経済指標が景気の鈍化を示しており、その意味では昨年3月以降全ての会合で利上げを実施してきたFRBの「景気抑制策」は効果が出始めていると理解できます。それでも多くのFOMCメンバーは今後の金融政策に関しては「タカ派」寄りの姿勢を維持しています。これは本音というよりも、常に先走る市場をけん制しているものと理解していますが、パウエル議長を始め、多くのメンバーは「インフレを金融当局の目標である2%に戻す過程では、痛みを伴う」と、口を揃えて言ってきました。すでに株式や債券市場ではその痛みが「具現化」していますが、さら深い痛みもあり得ることから警告を発し続けているとも理解できます。インフレという目に見えない「怪物」は一旦動き出したら、なかなか止められないことは過去の歴史が物語っています。米国には地区連銀が12あります。日本と違って、その地区連銀総裁の多くは経済学者です。現財務長官のジャネット・イエレン氏も、前職のFRB議長の前はSF連銀の総裁で、著名な経済学者です。経済に精通しているだけに、インフレに対する警戒感を緩めずに警告を発し続けているのかもしれません。
今年前半はドル安に振れると予想していますが、先週の130円割れは正直驚きでした。ただ、市場参加が少ないところに投機的な動きがあったのは事実のようで、通常の厚いマーケットであったならば、そこまでドル売りは進まなかったのではないかと考えます。
今後の焦点は、米国の「消費者物価指数(CPI)」と「雇用統計」という2大重要指標の行方です。米国のインフレ率は昨年6月の「9.1%」(前年同月比)でピークを付け、その後漸減しています。ただ、大幅な利上げを実施した割には、減速ペースは緩やかです。この2つの指標がどの程度、そして、どのタイミングで景気抑制の影響を受けた数字を示すかによって、今年前半の相場展開も大きく異なります。確かなことは、今年も昨年同様、想定外の動きが何度も見られということです。値動きが大きいだけに利益を取るチャンスはありますが、同時に昨年にような「一方通行」の動きがあった場合には、思った以上に損が膨らんでいることもあり得ます。今年も慎重に、さらに用心深いスタンスをお願いしたいと思います。
外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算20年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書。