ドル円が再び大きく動いています。先週の雇用統計発表前には128円台半ばで推移しており、その前日には128円ぎりぎりまで売られたドル円は、米1月の雇用統計が予想を大きく上振れしたことで131円台を示現し、週明け月曜日には、日経電子版が、「政府、次期日銀総裁に雨宮氏を打診」と伝えたことで、早朝のオセアニア市場では一気に132円56銭前後までドル高が進みました。
雨宮氏は現職の日銀副総裁であるということで、もし雨宮氏が新総裁に就けば、現行の大規模な金融緩和政策の変更が遅れるといった見方から円売りが加速したものです。筆者はやや過剰反応ではないかと感じています。確かにもう一人の有力な候補者である中曾前日銀副総裁に比べれば、「現執行部」ということもあり、黒田氏肝いりの「異次元の金融緩和策」を変更しにくいという面はあろうかと思いますが、誰が新総裁になろうとも、現行政策の変更や撤廃は必至かと考えます。ドルロングの投資家にとっては、「良い売り場」を与えてくれたといった印象です。ドル円は東京市場の午前中にも132円39銭近辺まで買われる場面はありましたが、午後には131円台半ばまで押し戻されています。
一方で、今朝の「アナリストレポート」でも触れましたが、テクニカルは短期的にはドルの上値を試すことが示唆されています。「8時間足」以下の短期のチャートではこれまでの上値に位置していた抵抗線をことごとく上抜けしています。問題は、この短期的な動きが、将来のドル高を暗示しているのかどうかということですが、それにはまさに今後のデータを確認するしかありません。また非常に強い雇用統計を受けて、今後FOMCメンバーがどのような姿勢を示すかにも注目です。タカ派的な発言があると、それだけでドル高に振れる可能性もあるからです。おそらく、今回の雇用統計の結果が、FOMCメンバーをしてタカ派寄りへとバイアスをかける可能性が高いのではと予想しています。インフレ率の低下について、これまで以上に慎重な見方を示すかもしれません。
余り話題にはならないようですが、米軍が米国の領空侵犯をしたとして、中国の偵察気球を撃墜した件について、筆者は今後注意が必要かと考えます。中国側は「明らかに過剰反応で、国際慣例に重大に違反している」として対抗措置を示唆しています。中国国防省は、「必要な手段を使って類似の状況に対処する権利を留保する」とコメントを発表しており、この場合の「類似の状況」とは、南シナ海上空での米軍偵察機を意味している可能性もあると報道されています。特に今回の撃墜は、バイデン大統領自身が「撃墜せよ」と命じたと伝えられており、このところやや緊張が緩和してきた米中関係に再び緊張が高まっています。ブリンケン国務長官が直前になって訪中をキャンセルしたことでも、事の重大さが理解できますが、今後は「偶発的な事故」が両国の緊張をさらに高める可能性が指摘されています。緊張が高まれば高まるほど、一方の当事国の通貨であるドルが売られる可能性が高いと見ていますが、地理的にも近い南シナ海や台湾海峡での偶発的衝突は、円売りの可能性も全くないとは言い切れません。そのような事態が起きないよう祈るしかありません。この先もドル円が動く材料には事欠かないようです。
外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算20年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書。