「晴天の霹靂」とは、このことでしょう。米カリフォルニア州に本拠地を置くシリコンバレー銀行(SVB)が破綻したことで、リスク回避の動きが強まり、株安、債券高、金利急低下にドル円は大きく売られ、今朝は、先週末のNYの安値を大きく下回る133円54銭近辺まで急激なドル安が進みました。
そもそも全米16位の資産規模を誇る銀行とはいえ、筆者も含め、多くの投資家にとって初めて耳にする名前です。ましてや、その銀行が預かった預金の運用先として「債券市場」に多額の資金を振り向けていたことなど、知る由もないことです。シリコンバレーでは、いわゆる「スタートアップ」企業が同行を資金の預け先としていたこともあり、2022年3月末の預金残高は前年同月比60%も増加する一方、安定した融資先がなかったためか、長期の国債で運用していたようです。そのため、「預金に対する有価証券の割合を示す預証率は70%弱と、20〜40%が中心の他の米銀に比べて突出して高かった」(日経新聞)ことが「裏目」に出たようです。今年1月初旬には3.5%台で推移していた米10年債利回りは、一時4%を超える水準まで上昇する局面もありました。
SVBの破綻で、一気に金融市場の流れが変わる雰囲気も出てきました。株価の大幅安から安全資産の債券に資金が向かい、米長期金利は急低下しています。つい先週の木曜日には今月のFOMC会合では0.5ポイントの利上げを見込む動きが強まりましたが、今回の破綻劇を境に0.25ポイントの利上げ幅に戻り、一部には利上げ見送り観測も出てきたようです。ドル円も138円手前まで上昇し、雇用統計と2月の消費者物価指数が強い内容であったら140円テストの可能性も意識されていた展開でしたが、上昇機運に一気に水を浴びせられた格好です。133円台半ばまでドル安が進んだことで、日足チャートでは「雲」を大きく上抜けて上昇していたものが、「雲の上限」まで下落しています。今後の展開次第では「雲の下限」である130円台半ばを抜くようだと、「雲抜け」も完成させ、再び年初に観られたドル安トレンドに変わる可能性もあるかもしれません。SVBの破綻がリーマンショック級の金融システム危機につながるとは思いませんが、今朝の報道では「NY州当局がシグネチャ−・バンクの事業を停止」とのニュースも飛び込んできており、まだ不透明感も強く、落ち着くまで時間がかかりそうです。
明日14日(火)には2月の消費者物価指数が発表されますが、今回の破綻が今後のFRBの金融政策にも影響を与えそうです。最悪のシナリオは、2月のCPIが再び上昇に転じる結果を示しながらも、FRBはこれ以上の小規模な金融機関の破綻連鎖を防ぐという観点から、債券価格の下落を避けるため、大幅な利上げに踏み切れないといった事態です。インフレが進む中、金融不安から景気が落ち込む事態もあり得るかもしれません。先ずは、明日のCPIの結果と、来週のFOMC会合での政策決定を見極める必要があります。相場は不安定で、どちらにも振れる可能性があるとみています。
外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算20年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書。